「0からきた敵」(眉村卓)

併録作品を軽視してはいけません

「0からきた敵」(眉村卓)
(「ねらわれた学園」)角川文庫

和夫は見知らぬ倉庫のような
一室で目を覚ました。
彼は友人・俊児に誘われ、
彼の父の研修所へ
見学にきていたはずだが、
そこから先の記憶がない。
研究所からの脱出に
成功した和夫が帰宅すると、
そこにはもう一人の
自分がいた…。

今だから言います。
併録作品を軽視してはいけません。
えっ、何の事かって。
以前取り上げた「ねらわれた学園」には
もう1編、
短編SFが併録されているのです。
それが本作品です。

複製人間を題材にした作品です。
マッドな科学者である研究所所長が
生物の複製(といっても
クローンではない。
まさしくコピー)を
つくることに成功し、
ついには自分のコピーをも
つくってしまう。
で、案の定、その偽物に
取って代わられるという、
見え見えの設定です。

和夫の活躍で研究所の
異変が知れ渡ることとなり、
ついには機動隊が
研究所を包囲します。
しかしさすがは秘密の研究所。
火炎放射器で機動隊を
壊滅させます(けっこう原始的!)。
機動隊は情けないほど弱すぎます!

さらに物語終末では、
所長の2次コピー、
3次コピー、
4次コピーまで現れ、
ハチャメチャなうちに
大団円を迎えます。

現代の大人の目線で読むと、
設定の大甘な作品(というよりも
もはや噴飯もの)なのですが、
SF作品は
これもひとつの在り方なのです。

特に本作品は、
「見えない敵が静かに
自分たちの日常を侵す」という点で、
本編である「ねらわれた学園」と
連動しており、
切り離してはいけないのです。

なぜこんな事を
わざわざ書いたかというと…。
実は「ねらわれた学園」の
文庫本を探していたのですが、
地元の古書店にはついに登場せず、
やむなくamazonから
中古を購入しました。
期待して封を切ると、
中から出てきたのは
見たことのない表紙です。

まあいいか、と読んでみると、
あれ、ない…。
確かもう1編あったはずなのに…。
本作品はバッサリと
斬り捨てられていたのでした。

結局ネットオークションで
再購入です。
めでたく薬師丸ひろ子表紙の本品を
入手できました。
こんなことなら20数年前、
処分しなければよかったと
後悔しました。
本書も都合3回目の購入です。
もう手放しません。

※新しい表紙のものは
 角川スニーカー文庫として、
 ラノベ扱いとして
 再出版されていたのでした。
 確かに本作品は
 現代の子どもたちに
 受け入れられるとは思えません。
 それをカットし、
 本編のみに絞り、
 単価を抑えるという
 意図も分かります。
 しかし、過去の作品に対する
 リスペクトの姿勢が感じられません。
 昭和50年代、
 町の本屋の文庫本コーナーに
 多くの作品が燦然と並んでいた、
 過日のこの出版社の
 隆盛ぶりから考えると、
 何とも言えない気持ちが残ります。

(2019.3.9)

Pixabayのwizz47による画像です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA