「本陣殺人事件」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング

金田一耕助の事件簿001

金田一耕助デビュー、傑作中の傑作。

「本陣殺人事件」（横溝正史）角川文庫

岡山県の旧本陣の素封家･
一柳家の屋敷で執り行われていた
長男･賢蔵と克子の結婚式。
そののち明け方近く、
新郎新婦の寝屋である離れ家で、
二人は血まみれになって
死んでいた。
犯人の逃げた跡が
どこにもなかった密室状態で…。

金田一耕助の
デビュー作であると同時に、
横溝正史の最高傑作の一つである
本作品を、
30年ぶりくらいで再読しました。
学生時代には
その本当の面白さを理解できず、
｢習作｣と勝手に判断していました。
まさかまさか。
探偵小説の傑作中の傑作ということに、
今頃気づいた次第です。

【事件簿File-001｢本陣殺人事件｣】
〔事件発生〕
昭和12年11月(岡山県)
〔依頼人〕
久保銀造
…成功した果樹園経営者。
　一柳家元小作人。
　金田一のパトロン的存在。
〔捜査関係者〕
磯川警部…岡山県警警部。
〔事件関係者〕
一柳糸子
…一柳家の威厳を重んじる刀自。
一柳賢蔵
…糸子の長男。一柳家当主で学者。
久保克子
…賢蔵と結婚。女学校教師。銀三の姪。
一柳隆二
…糸子の次男。医師。大阪の病院に勤務。
一柳三郎
…糸子の三男。探偵小説マニア。
一柳鈴子
…糸子の次女。琴の高い技能を持つ。
一柳良介
…一柳家分家主人。賢蔵の従兄弟。
お直･お清･源七
… 一柳家の使用人。
周吉
…一柳家の小作。水車小屋へ来る。
清水京吉
…右手が三本指の男。
田谷照三
…克子と交際していた怪しい男。
白木静子
…女学校の教師で克子と親友。
一柳作衛
…糸子の夫。
　日本刀で刃傷沙汰を起こし死亡。
一柳隼人
…良介の父。
　軍役中に日本刀で割腹自殺。

本陣殺人事件横溝正史 (角川文庫) kindle

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今日紹介した本

傑作である理由①
日本家屋では難しい密室殺人
密室殺人のトリックの
難しさについては
本作品中にも記されています。
しかし、
隙間だらけの日本家屋での
密室殺人の設定は、
西洋のそれとは
比べものにならないくらい
難しいのです。
それを成し遂げた
緻密なトリックの構成は、
傑作というしかありません。

傑作である理由②
誰もが疑わしい人物設定
犯人がすぐ分かるような作品は
ミステリーとはいえません。
誰もが皆、
犯人らしいふるまいをするから
ミステリーなのです。
本作品も登場人物
すべての挙動が不審です。
そして事件の真相は意外な方向へ。
謎解きの面白さを
堪能できる人物設定は、
傑作というしかありません。

傑作である理由③
犯罪に至る動機の揺るぎなさ
殺人事件が起きるには、
それ相応の理由が必要です。
｢動機｣はミステリーの
重要な構成要素です。
このような複雑なトリックを
駆使してまで
殺人を犯す必要があったのか。
その動機付けに深く納得できる
シチュエーションです。
犯罪の背景を明確にする
｢動機｣の揺るぎなさは、
傑作というしかありません。

傑作である理由④
横溝作品特有のおどろおどろしさ
横溝の長編作品の特徴は
｢おどろおどろしさ｣です。
元本陣という華々しい家柄と
昭和の成り上がりの一家の
結婚という設定、
これまで忌まわしい
死に方をしていたという背景、
三本指の男という
奇っ怪な登場人物等々。
妖しい雰囲気が
全編に漂うおどろおどろしさは、
傑作というしかありません。

INDEX 金田一耕助の事件簿(事件年代順)

金田一耕助金田一耕助。横溝正史の推理小説に登場する架空の私立探偵。江戸川乱歩の明智小五郎、高木彬光の神津恭介と並んで日本三大名探偵と称される。ボサボサの蓬髪でフケ症、興奮するとその頭をかきむしる悪い癖がある。顔立ちは至って平凡、体躯は貧相、格闘には全く向いていない。服装は皺だらけの絣の単衣の着物と羽織によれよれの袴。形の崩れたお釜帽を着用。多くの事件を手がけたが、そのうち77の事件が作品化されている。【金田一耕助の事件簿77作品】※原形作品はb,cの記号で表記001 本陣殺人事件002 百日紅の下にて003...

｢獄門島｣や｢八つ墓村｣のような
華々しさはありませんが、
本作品はまさに
それら金田一シリーズの
出発点となるものであり、
かつ頂点をなす作品の一つなのです。
かつて探偵小説ファンだった
50代以降の皆さん、
もう一度読み返してみませんか。

〔本書併録作品〕

「車井戸はなぜ軋る」（横溝正史）

金田一耕助の事件簿004｢犬神家の一族｣を彷彿とさせる重厚な構造「車井戸はなぜ軋る」（横溝正史）（「本陣殺人事件」）角川文庫｢本陣殺人事件｣角川文庫平成31年版表紙K村の名家･本位田家の長男･大助が、両眼を失った状態で戦地から帰還した。あれだけ明るく思いやり深かった大助だが、復員後は人が変わったように暗く陰湿な性格になっていた。祖母･槇、妻･梨枝、妹･鶴代は、ある疑いを抱く…。｢本陣殺人事件｣に併録されている、わずか80頁弱の中篇なのですが、名作｢犬神家の一族｣を彷彿とさせる重厚な構造は読み応えがあります。【事...

「黒猫亭事件」（横溝正史）

金田一耕助の事件簿008戦後の東京を舞台とした｢ドスぐろい｣犯罪「黒猫亭事件」（横溝正史）（「本陣殺人事件」）角川文庫「本陣殺人事件」角川文庫平成31年版表紙東京G町で、腐乱した女性の全裸遺体が発見される。被害者は付近の酒場｢黒猫｣のマダム･お繁と思われた。容疑者として｢黒猫｣のマスター･糸島が浮上する。しかし彼には鮎子という愛人がいることが分かる。殺されたのはいったい…。横溝正史の描く金田一耕助シリーズの短篇作品です。金田一ものは、瀬戸内や諏訪を舞台とした因習深さを生かした作品と、東京を中心とした戦後の...

※アイ･キャッチ画像は最近復刊された
　杉本一文装幀の限定復刻版です。
　このほかにも旧角川文庫の
　2冊(下の写真)を所有しています。

　旧角川文庫にはもう一つ、併録作品の
　｢黒猫亭事件｣をメインにした
　表紙のものも存在しますが、
　オークションでも高値がつくため、
　未だ所有できていません。
　限定復刻するなら、
　｢黒猫｣バージョンの方だったら
　よかったのに…。

（2019.3.10）

〔追記〕
3年ぶりに再読しました。
やはり傑作だと感じます。
今回気づいたのは、
本書は本格探偵小説の読書案内の機能も
果たしているという点です。
冒頭から
ルルー｢黄色の部屋｣
ルブラン｢虎の牙｣
ヴァンダイン｢カナリヤ殺人事件｣
ヴァンダイン｢ケンネル殺人事件｣
カー｢ブレーグ･コートの殺人｣
スカーレット｢エンジェル家の殺人｣
さらには
A･A･ミルン｢赤屋敷の殺人｣
そして作者名だけでも
ドイル、クロフツ、クリスティ、
エラリー･クイーン、
江戸川乱歩、小酒井不木、甲賀三郎、
大下宇陀児、木々高太郎、
海野十三、小栗虫太郎、と続きます。
まだ読んだことのない
作家･作品ばかりです。
自分の勉強不足を思い知りました。
少しずつ読み進めたいと思います。