「白い恋人」(横溝正史)

横溝作品を味わい直してみませんか

「白い恋人」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション⑥」)柏書房

「白い恋人」(横溝正史)
(「丹夫人の化粧台」)角川文庫

「白い恋人」(横溝正史)
(「青い外套を着た女」)角川文庫

映画女優が突然
サーカスの一寸法師を刺殺し、
自刃して果てたという
事件が起きた。
女優と一寸法師は
お互いに面識はなかったという。
だが「私」は事件の一週間前に、
彼女から「私は近いうちに
死ぬのでは」という
相談を受けていた…。

文庫本にしてわずか11頁の
横溝正史の短編作品なのですが、
恐怖感とおどろおどろしさが
その中に凝縮され、
読み手に高密度で伝わってきます。
謎解きが行われるわけではなく、
むしろ謎が広がるだけの作品です。
本作品はミステリーなのか、
それともホラーなのか。
それすら判然としません。

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【主要登場人物】
須藤瑠美子
…映画女優。
 初対面の男を殺害したあと、自刃。
蜘蛛安
…異様に背の低い男(一寸法師)。
 瑠美子にいきなり刺される。
M
…かつて瑠美子と同じ撮影所で
 働いていた技師。
「私」
…語り手。
 瑠美子からは「先生」と呼ばれている。

本作品の味わいどころ①
女優が殺人にいたった背景
映画女優という表舞台の
光の眩しい世界にいる女性が、
身体的な不具合のために
サーカスの見世物になっている、
いわば陽のあたらない
世の中にいる男に、
突然襲いかるという、
何とも説明の付かない事件です。
しかし、その背景には、
実に恐ろしい出来事が
潜んでいるのです。

ネタバレを避けたいので、
具体的なことには触れません。
しかし、殺人に至った経緯は、
すこぶる奇妙奇天烈でありながら、
十分納得できるものなのです。
「動機」が十分に練られている点は、
横溝ミステリーの真骨頂といえます。

本作品の味わいどころ②
夢か現実か分からない恐怖

殺人の動機となった、
女優が体験した不思議な事件は、
現実に起きたことなのか、
それとも女優の意識が
混濁した故の幻想なのか、
全く判断できません。
だからこそ、恐怖なのです。
恐怖もその全貌がつかめれば、
決して恐怖とはなり得ませんが、
「分からない」ことほど
恐ろしいことはありません。

その夢か現実か「分からないこと」は、
実に克明に記述されています。
こんな明確な恐怖体験が、
実際にあったことかどうかが
分からない。
これこそ究極の恐怖です。

本作品は、角川文庫の旧版では
「青い外套を着た女」に
収録されていた一篇です。
学生時代に読んだものの、
全く印象に残っていませんでした。
昨年新しく編まれた短編集である
本書に収録されたものを読むと、
極めて新鮮に感じることができました。
横溝初期作品には、
まだまだ見逃されないものが
数多くあるのだと感じました。

北海道の銘菓と同じ名称でありながら、
全く甘くありません。
横溝作品を
味わい直してみませんか。

柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ⑥空蟬処女」収録作品一覧

白い恋人
青い外套を着た女
クリスマスの酒場
花嫁富籤
仮面舞踏会
佝僂の樹
飾窓の中の姫君
覗機械倫敦綺譚
花火から出た話
物言わぬ鸚鵡の話
マスコット綺譚
恋慕猿
X夫人の肖像
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年後
空蟬処女
玩具店の殺人
頸飾り綺譚
劉夫人の腕環
路傍の人
帰れるお類
いたずらな恋
上海氏の蒐集品

「丹夫人の化粧台」収録作品一覧
山名耕作の不思議な生活
川越雄作の不思議な旅館
双生児
犯罪を猟る男
妖説血屋敷


白い恋人
青い外套を着た女
誘蛾燈
湖畔
髑髏鬼
恐怖の映画
丹夫人の化粧台

「青い外套を着た女」収録作品一覧
白い恋人
青い外套を着た女
クリスマスの酒場
木乃伊の花嫁
花嫁富籤
仮面舞踏会
佝僂の樹
飾窓の中の姫君
覗機械倫敦綺譚

(2019.3.10)

Image by TheDigitalArtist on Pixabay

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