「走れ、セナ!」(香坂直)

キーワードは「新発見」と「ふつう」

「走れ、セナ!」(香坂直)講談社文庫

足の速さに自信のあったセナは、
運動会で
一ノ瀬さんに負けてしまう。
彼女はクラブチーム所属で、
全国大会4位の選手だった。
セナは次の競技会で
彼女に追いつくことを
目標に練習をしていた。
ところが
陸上部が解散するという…。

セナは小学校5年生
女子陸上競技部員。
でも、
筋書きは陸上そのものではなく、
「クラスの中の人間関係」と
「セナと母の親子関係」に
重点が置かれています。

「クラスの中の人間関係」を
描いた部分での
キーワードは「新発見」。
何を「新発見」するのか?
もちろんクラスメイトの
「良いところ」です。
子どもたちの人間関係は
固定化しやすいものです。
だからときどき
「かき混ぜる」必要があります。
そのための席替えなのですが、
子どもたちにとっては
仲のいい友達のそばになるかどうか、
一喜一憂となるのです。
そのあたりの小学生の心情が、
実によく表現されています。

くじ引きで決まった班編制は、
セナにとっては最悪。
早坂・岡町・田中の4人は
すべてクラスの中で浮いた存在。
しかしセナは少しずつ
この3人について
「新発見」していくのです。

「セナと母の親子関係」の場面での
キーワードは「ふつう」。
セナは何かにつけて
「○○がふつう」を繰り返します。
これも子どもたちの常套句です。
でも、多くの場合、
自分に都合のいい部分を取り上げて
「ふつう」としているのです。
「スマホを持っているのは
ふつう」と言って多くの子どもが
親にねだっていることでしょう。
ここも小学生の様子が
リアルに描写されています。

セナが最も気にしていたのは、
自分に父親がいないのは
「ふつう」じゃないということ。
セナは母親と衝突しながらも、
「ふつう」など
存在しないことに気づき、
それを乗り越えていきます。

さて、
肝心の陸上競技ですが、
事件も起きず、劇的な成長を
遂げるわけでもありません。
かつてのように、
環境が変わって
主人公の技術や能力が短期間で
一気に飛躍するような筋書きは、
近年めったに見なくなりました。

最後に目標としていた
競技会の場面が描かれます。
セナはやはり一ノ瀬には
遠く及びませんでした。
しかし、6年生になったら、
いや中学生になったら、と
その先に希望を
抱かせるような終わり方であり、
爽やかな感動に包まれます。

中学校1年生に薦めます。
同世代・等身大の主人公の頑張りぶりを
しっかり受け止めて欲しいと思います。

(2019.3.27)

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