「まぼろしのペンフレンド」(眉村卓)

レトロ感どころか未来を先読みしたような先見性

「まぼろしのペンフレンド」(眉村卓)角川文庫

中1の明彦に
突然舞い込んだ奇妙な手紙。
差出人・本郷令子という名には
まったく心当たりがない。
そこには「あなたのすべてを
詳しく教えて」とあり、
調査費として1万円が
同封されてあった。
明彦のまわりで
奇妙な事件が起きる…。

眉村卓のSFジュヴナイルの一つです。
1970年に書かれただけあって、
かなりレトロな雰囲気です。
SFとしては現代では
まともに読むことが
難しいと思われます。
そもそも表題の「ペンフレンド」すら
死語になっているのですから。
しかし改めて読むと、
この作品に描かれている
事件・事案の中で、
形を変えて現実化しているものが
かなりあることに気付かされます。

形を変えて現実化したもの①
なりすましの罠

アナログなら「オレオレ詐欺」、
デジタルならネット上の
なりすましが現代では溢れています。
本作品の手紙の差出人・本郷令子は
まさになりすまし。
もしかしたら70年代に
本作品を読んでいた中学生が、
平成の世の中で「なりすまし詐欺」を
始めたのではないかと
勘ぐってしまいたくなるほどです。

形を変えて現実化したもの②
個人情報の商品化

本作品発表当時には、
個人情報に価値を見いだす風潮など
存在しなかったはずです。
本作品に描かれている
個人情報の買い取りは、
平成では(裏の)ビジネスモデルとして
十分に成立しています。
これも本作品から始まったのかも?と
ついつい考えてしまいます。

形を変えて現実化したもの③
無機生命という概念

侵略者は別宇宙の無機生命体です。
ところがその無機生命体は、
かつては有機生命体に
仕えていたものの、
それ以上に高度に発展したために、
それらを駆除し、
他の宇宙に進出したという設定です。
この無機生命体の本質は
現代で言うAIにほかなりません。

このような視点で読み進めると、
時代遅れのレトロ感どころか、
未来を先読みしたような
先見性が至るところに
見られることに愕然とさせられます。
もしかしたら
本作品で描かれていることは、
現実世界で
静かに進行しているのではないか?
そんな不安さえ覚えます。
これが眉村卓のSF世界です。
70年代・80年代に中学生だった
大人のあなたにお薦めします。

※作品前半は明彦やその周囲の人間が
 あまりにも腰の引けた行動だらけで
 おもしろみが今ひとつですが、
 明彦が侵略者に拉致されてからの
 後半部分が読み応えがあります。
 むしろこの部分の、
 明彦とアンドロイドとの
 淡い恋愛を、
 もっと味わいたいと思いました。

(2019.4.27)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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