「夏の庭」(湯本香樹実)

「冒険」を通して「生」を輝かせ「死」の意味を考えさせる

「夏の庭 The Friends」(湯本香樹実)
 新潮文庫

「ぼく」と河辺・山下の三人は、
町外れに暮らす
一人のおじいさんを
「観察」し始める。
人の「死」を
見届けたいと思ったからだ。
夏休みに入り、
「ぼく」たち三人の観察は
盛んになるが、
それに反しておじいさんは
日ごとに元気になっていく…。

1992年に刊行された本作品も、
すでに三十年以上が経過し、
児童文学の
名作中の名作となっています。
1993年には日本児童文学者協会新人賞
および児童文芸新人賞を受賞した、
湯本香樹実のデビュー作品です。
味わいどころを
キーワードで表現すると、
「冒険」「生」「死」となるでしょうか。

〔主要登場人物〕
「ぼく」(木山)

…語り手。小学校六年生。
「おかあさん」
…「ぼく」の母親。
 キッチンドリンカーらしい。
「おとうさん」
…「ぼく」の父親。帰りがいつも遅い。
山下
…「ぼく」の同級生。太っている。
河辺
…「ぼく」の同級生。
 メガネをかけている。
 人の「死」を見ることを提案する。
杉田松下
…「ぼく」の同級生。
 性格が悪く、常に三人に嫌みを言う。
田島ともこ酒井あやこ
…「ぼく」の同級生。かわいい女の子。
近藤静香
…体育教師。プールで溺れた山下を救出。
「おじいさん」
…一人暮らしのおじいさん。
 かつては花火職人。
 「ぼく」たちに観察される。
古香弥生
…「おじいさん」のかつての妻。
 老人ホームにいた。
「池田種店のおばあさん」
…三人が種を買いにいった店の老主人。
 三人に頼まれ、
 古香弥生の代わりを務める。

本作品の味わいどころ①
子どもたちを成長させる「冒険」

本作品のテーマは人の「死」です。
「死」を扱いながら、
本作品がけっして暗いものにならず、
むしろどこまでも
「生」の明るい輝きを放っているのは、
ひとえに少年の冒険物語として
編まれてあるからなのです。
本作品は、冒険に満ちあふれています。

夏休みを利用して
おじいさんの「死ぬところ」を
観察すること自体が一つの冒険です。
おじいさんの家を塀の外から偵察したり
おじいさんの買い物を
探偵のように尾行したりと、
小学校六年生ならそれだけで
わくわく感でいっぱいでしょう。

でも子どもたちの最大の冒険は、
「おじいさんの別れた奥さん捜し」です。
おじいさんから聞いた
「古香弥生」という名前を手掛かりに、
三人は幸運にもそのおばあさんを
見つけ出すことに成功するのです。
ところがそのおばあさんは
すでに認知症が始まっていて、
もはや昔のことを思い出せないのです。
おじいさんを喜ばせるために
三人が知恵を絞って
考え出した方法とは何か。
ぜひ読んで確かめて下さい。

そうした夏の冒険により、
子どもたちは着実に
一回り大きく成長しているのです。
夜中に幽霊を恐れずに
トイレに行けるようになったり、
梨の皮を母親に頼らずに
自分で上手にむけるようになったり、
母親の再婚を
受け入れられるようになったり、
学ぶ意義を理解して自ら受験勉強を
進められるようになったり、
作品終末には、三人の成長の断片が
いくつも記されています。
この、子どもたちの成長を促した
一夏の「冒険」こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかり味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
子どもたちが体験する人の「生」

偏屈だったおじいさんと
対等に渡り合ったという経験も、
三人の子どもたちの
「冒険」の一つといえます。
おじいさんに半ば乗せられる形で
三人が取り組むにいたった
ゴミ出し、草むしり、洗濯物干し、
コスモスの種まき、そうしたことが
結果としておじいさんの「生」を
再び輝かせるとともに、
子どもたちの「生」を
より一層力強いものにしているのです。
三人はいわば現代の子どもたち、
生活体験が
決定的に不足していたのです。
ところがおじいさんに関わる「冒険」が
子どもたちに成長を促し、
その結果として
おじいさんと子どもたち双方の「生」が
光を取り戻す。
なんともいえない爽やかさに
満ち溢れています。
この、子どもたちが体験の中から
発見する人の「生」の煌めきこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
子どもたちが向き合う人の「死」

児童文学のテーマに
「死」を持ち込まなくても…、という声が
聞こえてきそうですが、
核家族化の進行と
終末医療の発展により、
「死」が日常から遠ざかってしまった
現代だからこそ、
子どもたちにあえて「死」を提示する
意義は大きいといえます。

物語の冒頭、子どもたちは
素朴な疑問を声に出します。
「自分がいつかは死ぬとか、
 死んだらどうなるんだろうとか、
 そんなことばっかり
 考えてしまうんだ」

子どもたちの、身のまわりの「死」に
敏感になっている様子が、
作品にはしっかりと描かれています。
飼い犬が寿命を迎えたとき、
「犬は段ボール箱の中に
 入れられていた。
 中を見てはいけないと
 おとうさんが言った。
 ぼくはそうやって、
 いろいろなことを
 見過ごしているような、
 そんな不安に今でも襲われるのだ」

次第に子どもたちは
「死」の形を捉え始めるのです。
「ぼくがまだ小さい頃、
 死ぬ、というのは
 息をしなくなるということだと
 教えてくれたおじさんがいた。
 それは絶対に、違うはずだ」

子どもたちのそうした思いは、
台風の日におじいさんが語り始めた
戦争の話によって
さらに深く
心に刻まれることになります。

やがて子どもたちは
「死」と「生」を一つのものとして
考え始めます。
「歳をとるのは
 楽しいことなのかもしれない。
 歳をとればとるほど、
 思い出は増えるのだから」

そして直面する本当の「死」。
おじいさんの骨を拾いながら
子どもたちは
「死」としっかり向かい合っています。
「おじいさんの骨を見て初めて、
 もしかしたらおじいさんが
 生きかえるかもしれないと
 心のどこかで思っていたことに
 気づいた。
 でも、そんなことはもうないと
 わかった今、
 ぼくの心は不思議なほど静かで、
 素直な気持ちに満たされていた」

子どもたちは「死」を考えることによって
さらに深く成長しているのです。
この、子どもたちが十二歳の視点で
真っ正面から受け止める
人の「死」の意味こそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

「冒険」を通して「生」を輝かせ
「死」の意味を考えさせる、まさに
児童文学の最高傑作といえるでしょう。
もはや押しも押されもせぬ
日本児童文学の古典的名作、
中学校一年生の夏の読書に
強く薦めたい一冊です。
もちろん、大人のあなたも
ぜひご賞味ください。

(2019.5.1)

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