「フランシス・マカンバーの短い幸福な生涯」(ヘミングウェイ)

彼の待ち望んだ「幸福な」瞬間

「フランシス・マカンバーの
        短い幸福な生涯」
(ヘミングウェイ/高見浩訳)
(「百年文庫042 夢」)ポプラ社

前日のライオン狩りでの失敗で
妻に愛想を尽かされた
マカンバーは、
今日のバッファロー狩りで
汚名をそそごうとしていた。
狩りをしているうちに
彼の内部には確固とした
自信がみなぎってくる。
最後の一頭が
突進してきたとき…。

そのとき妻の銃から発射された弾丸は、
マカンバーの脳天を砕きます。
衝撃的な結末を迎える本作品を
読み込むためには、
マカンバー夫妻の関係を
理解しておく必要があります。

夫・フランシスは
財産家でかつ「頑丈な体格」であり、
「人には好男子に見られていた」のです。
申し分ない男性像なのですが、
その一方で、
お坊ちゃんタイプであることが
うかがえる記述があります。
また、「セックスについては
書物で、多くの書物で、
あまりにも多くの書物で
知っていた」という表現も、
彼の人物像を考える上で重要でしょう。

妻・マーガレットは
「並みはずれて美しく、
スタイルのいい女性」です。
しかしその美しさの年齢的なピークは
過ぎているのでしょう。
「祖国に帰れば、もはや彼を捨てて、
よりよい暮らしを営めるほどの
美人ではない」のです。

夫にすれば
妻に逃げられるわけにはいかず、
妻にすれば
夫から逃げたいけれども
別れるわけにもいかない
関係だったのです。

彼はこれまでも
妻を失望させることがあり、
今回のアフリカでの
ハンティング自体が
名誉回復の機会だったのですが、
恐怖心のあまり途中で逃げ出し、
恥の上塗りをしただけに終わります。
そして妻はあろうことか
堂々とガイドのウィルスンと
一夜を共にします。
したがって、再度の挑戦となる
バッファロー狩りでは
しくじるわけにはいかなかったのです。

彼は2頭のバッファローを狩るうちに、
男としての変容を遂げるのです。
「何かが起きたんだ。
まるでダムが決壊したみたいに」。

妻は「バッファローを
狙い撃った」のです。
これは偶然の悲しい事故なのです。
妻が望むような男になった、
だからこそ危険が及んだとき、
彼を助けようとする一心で
引き金を引いた。
(運悪くそれは彼の頭に当たったが)
その一瞬こそが、
二人の気持ちの重なった一時であり、
彼の待ち望んだ
「幸福な」瞬間だったのです。
たとえそれが客観的に見たときに
「幸福」とは言えなくとも。

人生の儚さをしみじみと感じさせる、
ヘミングウェイの傑作短篇です。

(2019.5.14)

Dan SudermannによるPixabayからの画像

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