「13歳のシーズン」(あさのあつこ)

連続する時間の中に、私たちは生きている

「13歳のシーズン」(あさのあつこ)光文社文庫

クラスになじめない茉里、
茉里を応援する深雪、
茉里を傷つけて後悔する真吾、
茉里の幼なじみの千博の4人は、
文化祭に出展する
「私たちの町の年表」づくりに
取り組む。
しかし文化祭前日、
それは何者かに破られていた…。

本作品のよさは、
中学校1年生の4人それぞれが
それなりの問題を抱えながら、
誠実に生きている姿がしっかりと
描き込まれている点でしょう。
茉里は美しく優秀な姉の存在により、
コンプレックスを持っている。
深雪は両親が離婚し、
父親が家を出て行ったことに
ショックを受けている、
千博は父親が歩道橋から
身を投げようとしている場面に
遭遇して困惑している。
真吾は思春期特有の悩みを持っている
(なぜか彼だけ悩みは軽い)。

中学校1年生が受けとめるには
やや大きめの問題でありながら、
筋書きは決して深刻にも
ドラマチックにもはなりません。
ほどほどのところで折り合いがつく、
現実的な展開です。
だから中学生向けといえるのでしょう。

4人が制作した年表は、
残念なことに破られてしまいました。
しかし4人は自分たちのために
新たに制作し直すことを決意します。
そして年表の最後に、
クラスメイト全員の誕生日を
記入することにするのです。
「歴史の年表って、わたしたちとは、
 あんまり関係ないって
 思うじゃない。
 でも、続いてんだよね。
 私たちのクラス全員に
 繋がってるわけでしょ。」
「なるほど、歴史の最先端に
 クラスの全員がいるってわけか。」

連続する時間の中に、
私たちは生きている。
そうした意識を持つことができたら、
子どもたちは一瞬一瞬を
大切に過ごすことができるのかも
知れません。

4人の中学生の爽やかに過ぎ去っていく
1年間が描かれています。
中学校1年生が読めば、
自分と同じ身の丈の登場人物たちが、
すぐ近くで息をしているような感覚を
覚えるのではないかと思います。
こうした作品から、
中学生の子どもたちが少しずつ
読書の楽しさを知ることができれば
素晴らしいと思うのです。
中学校1年生に薦めたいと思います。

さて、私は本書を中古で購入しました。
本文に一カ所だけ前の所有者による
マーカーが引かれてありました。
その一文は「楽しい時間は風だ」
おそらく中学生でしょう。
その子はどんな感動を持って
その一文にラインを描いたのか、
いろいろな想像が膨らみました。

(2019.5.16)

かっちゃんさんによる写真ACからの写真

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