「真理先生」(武者小路実篤)①

馬鹿一の画を評価する人々も善人であり奇人

「真理先生」(武者小路実篤)新潮文庫

真理について説いている
真理先生のもとには
皆が慕って集まる。
先生は石ばかり描いている
売れない画家・馬鹿一の
絵に興味を持ち、
彼に人間を描くことを勧める。
ある日、馬鹿一のもとに、
モデルに使ってくれという
女性が現れ…。

前回取り上げた武者小路実篤の作品で、
実直な画家・馬鹿一登場の、
こちらは長編小説です。

前回の「馬鹿一」では、
馬鹿一は周囲から
馬鹿にされている顛末が
描かれているのですが、
本作品は、馬鹿一が心ある人間から
その画を評価されている様子が
終始描かれています。
馬鹿一は善人なのですが
同時に奇人でもあります。
そのため、
馬鹿一の画を評価する人々もまた、
善人であり奇人なのです。

馬鹿一の画に込められた真実を
評価した人・真理先生。
金を稼ぐ生活を捨て、
自由気ままに真理を語る彼のもとには、
いつも人が集まります。
そんな彼の生活は
すべて後援会が面倒を見ています。
「馬鹿一」同様、
全編にわたってちりばめられた
真理先生の語る「真理」が、
本作品の読みどころとなっています。

馬鹿一の画の
誠実さを見抜いた人・書家・泰山。
口は悪いし人も悪いのですが、
やはり悪人ではなく、善人奇人です。
画も書も相通じていることを
知っていて、
画から馬鹿一の人柄を推し量る
度量の大きな人物として
描かれています。

馬鹿一の画から
並々ならぬ執念を感じた人・画家・白雲。
彼はすでに画壇から
認められているのですが、
馬鹿一の画を見て、
自分にないものを見いだし、
自己に取り入れようとします。

「馬鹿一」「真理先生」と続けて読むと、
「評価」というものについて
考えさせられます。
真実を愛する人間でなければ、
作品に込められている真実には
気付かない。
何かに誠実に取り組んでいる
人間でなければ、
作品に表れている誠実さには
気付かない。
一事に執念を燃やしている
人間でなければ、
作品の影にある執念に
気付くことはできないのです。

つまらない人間ほど、
簡単に他人の短所を見つけ出し、
批判します。
他人をこき下ろすことは
すこぶる簡単なのです。

肯定的にとらえる。
それがいかに難しいか。
そしてそれがいかに大切か。
そしてそれがいかに美しいかを
教えてくれるのが本書です。
人間関係がギスギスしやすい
現代にあって、貴重な存在です。
中学生に薦めたい一冊です。

(2019.6.3)

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