テーマは誘拐・徹底して誘拐
「地底の魔術王」(江戸川乱歩)ポプラ社
化け物屋敷と噂されている
古びた洋館に移り住んできた
紳士は「魔法博士」。
彼は近所の子どもたちを、
「不思議の国」と名付けた
自らの住まいに招待する。
そこで明智探偵助手・小林少年の
目の前で、親戚の天野少年が
姿を消され…。
少年探偵団シリーズ第6作の本作品。
もちろん面白さ抜群です。
「地底の魔術王」味わいどころ①
二十面相の変形・怪キャラクター
「黒い魔物」(「少年探偵団」)
「妖怪博士」「青銅の魔人」に続く、
江戸川乱歩の創りあげた
怪キャラクター第四弾、
その名も「魔法博士」。
「妖怪博士」とイメージが重なることを
恐れたのでしょう、
かなり派手な外観です。
頭髪は「もえるような黄色」、
しかも「縞のように黒い毛が
まじってい」るという
虎のような二色染め。
さらに「糸のようにほそい目」
「ワシのように高くて
だんだんになった鼻」
「針のようにこわい口ひげが、
ピンと両方にはねて」いるのですから、
具体を想像すると噴飯ものです。
でもこのくらい極端な方が
子ども受けします。
「地底の魔術王」味わいどころ②
テーマは誘拐・徹底して誘拐
戦前の3作では
美術品や宝石を盗み出すのが
二十面相の目的でしたが、
戦後は路線変更しています。
明智小五郎との対決です。
前作「青銅の魔人」では、
明智との知恵比べを
演じていたのですが、
本作では徹底して「誘拐」です。
まずは天野少年を誘拐し、
次に小林少年を誘拐し、
三人の少年探偵団員を誘拐し、
さらには明智小五郎本人を誘拐し、
最後には明智夫人まで
誘拐を試みます。
結果的に明智本人と夫人には
先読みされて裏をかかれるのですが、
ここまで「誘拐」に拘る
二十面相の徹底ぶりが見事です。
彼は多分血液型A型でしょう。
「地底の魔術王」味わいどころ③
開き直ってのパターン化
魔法博士の正体は二十面相である。
その設定を
読み手の子どもたちが見破ることを、
乱歩は創作段階で計算し、
ある意味、開き直っています。
明智が魔法博士の正体を見破ると、
「読者諸君は、
この一しゅんかんを、どんなに
待ちかねていたことでしょう。
諸君はさいしょ魔法博士が
あらわれた時から、
心の底に「怪人二十面相」の六字を
えがいていましたね。」
マンネリズムを恐れないところが
昭和の時代の特徴です。
このように、基本的には本作品を含め、
以後の作品は「青銅の魔人」の
焼き直しに過ぎないのです。
しかし読み手がそれを求め、
そうした乱歩の術中に
はまってしまうのです。
やはり少年探偵団シリーズは面白い。
私の世代にとって少年探偵団は、
TV特撮の「ウルトラマン」や
「仮面ライダー」と同等の輝きを
持つものとなっています。
※昭和25年に光文社の雑誌「少年」に
連載されたときのタイトルは
「虎の牙」でしたが、その後、
昭和39年にポプラ社から
「地底の魔術王」と
別題で刊行されています(多分、
このあとの他の作品も
敵キャラクターが
表題化されていますので、
それに倣ったのでしょう)。
(2019.6.23)
【青空文庫】
「虎の牙」(江戸川乱歩)