「鏡の国のアリス」(キャロル)

「不思議の国」と「鏡の国」、違いはどこなのか?

「鏡の国のアリス」
(キャロル/矢川澄子訳)新潮文庫

口をきくオニユリ、
赤の女王と白の女王、
おしゃべりする大きな蚊、
双子のソックリダムと
ソックリディー、
編み物をする羊、
次から次へと現れる
不可思議な生き物たち。
暖炉の上の鏡をくぐり抜けた
アリスはどこへ向かうのか…。

1856年に刊行した
「不思議な国のアリス」が大評判となり、
気をよくした作者が
二匹目の泥鰌を狙って書き表した、
いわば続編です。
「不思議な国」と同様に、
破天荒な展開、言葉遊びの数々、
夢の中の出来事等、
共通点は多いのですが、
では違いはどこなのか?

「不思議な国」と「鏡の国」の相違点①
モチーフとなるゲーム

物語の下敷きとなっているゲームは、
「不思議の国」がトランプなら、
「鏡の国」はチェスです。
特に後者はチェスゲームの
チェックメイトまでをなぞるように
物語が展開します。冒頭に作者は
念入りに解説してあるのですが、
チェスのルールを理解していない私には
(日本の多くの読者がそうだと
思うのですが)ちんぷんかんぷんでした。

「不思議な国」と「鏡の国」の相違点②
展開の緻密さ

①で述べたように、「鏡の国」は
チェスのチェックメイトまでを
なぞる形で進行しますので、
かなり緻密な構成です。
作者の本業は数学者であり、
その本質が顕著に現れているのが
「鏡の国」なのです。
「不思議な国」はあまりにも
ハチャメチャすぎます。

「不思議な国」と「鏡の国」の相違点③
さらに多彩になったキャラクター

「不思議の国」では
ハートの女王をはじめとする
トランプ・キャラ以外は
異様な動物たちと人間です。
「鏡の国」ではさらに幅が広がり、
キャラクター化が動物に止まらず、
植物や虫にまで及びます。
さらにマザーグースを原典とする
「ソックリダムとソックリディー」
(本来はトゥイードルダムと
トゥイードルディ、訳者が強引に
日本語的にしたものと思われる)、
「ハンプティ・ダンプティ」
(これはさすがにいじれなかったか、
そのまま)、
「ライオンとユニコーン」など周到な
キャラクター配置を見せています。

読んでみると「鏡の国」の方が
数倍面白いのです。
小説も映画も、
「続編は面白くない」という
定説がありますが、
ルイス・キャロルの二つの童話は、
明らかに続編の方が面白いのです。
中学生にお薦めですが、
本書をまだ読んでいない
大人のあなたにも、
本書の真価をしっかりと
味わっていただきたいと思います。

※「不思議の国」があまりにも
 有名になりすぎたためか、
 「鏡の国」は単なる二番煎じのように
 受けとめられ、あまり読まれて
 いないのかも知れません。

(2019.7.28)

LilawindによるPixabayからの画像

※角川文庫版の2冊も魅力的です。

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