「笑う男」(ピランデッロ)

人間はポジティブであることが大切なのです

「笑う男」(ピランデッロ/関口英子訳)
(「月を見つけたチャウラ」)
 光文社古典新訳文庫

息子に先立たれ、
その遺児である5人の孫を
養うアンセルモ氏。
彼は毎晩、隣りで眠る妻から
「あなた、笑ってる!」と
叩き起こされる。
どうやら自分だけ夢の中で
幸せを満喫していることに対して、
妻は癇癪を起こしているのだが…。

睡眠中の夫の笑い声が癪に障って、
頭痛や神経症、呼吸困難、
動悸を発症するのですから、
妻はよほど夫に対して
恨み辛みをため込んでいるのでしょう。

でも、アンセルモ氏は
夢を記憶していないのです。
それなのに妻には叱られる。
夢なんか見ていないはずなのに…。

医者に相談すると、
夢を見ているのだと断言されます。
そこで氏は開き直ります。
そうか、
自分は夢の中では幸福なのかと。

確かに現実は嫌なことばかりです。
妻は神経過敏で、
毎晩攻撃を仕掛けてくる。
5人の孫を養っているために
家計は火の車。
その孫の世話も
ほとんどは自分が行っている。
踏んだり蹴ったりです。
でも夢の中で幸福なら、
それは相殺されるのでは!?
誰しもが考えるはずです。

中島敦の小説に、やはり夢を扱った
「幸福」という作品があります。
奴隷として使われていた男が、
ある日を境に
自分が王となった夢を見ます。
それと同時に現実の王は
奴隷になった夢を見ます。
男は病も癒え、
健康で生き生きとしてくるのに対し、
王は血色が衰え、
やがて死に向かうという物語です。
夢は現実に勝る可能性があるのです。

想像してみると、
私たちもせめて夢の中で
最高の幸せを満喫できるなら、
現実世界の多少の辛さくらい、
何とかしのげそうです。
アンセルモ氏も
そう思ったに違いありません。

ところが…、氏はたまたま
夢を覚えてしまった日があり…。
氏が見ていた夢は
実に下らない夢だったのです。

それでも氏はさらに開き直ります。
「気にするな。
 バカげたことで笑うのは、
 ごく自然なことだ」
「バカになりきるより
 ほかにあるまい」

人間はポジティブであることが
大切なのです。何はともあれ、
笑うことが福を呼び込むのです。
日々の生活に疲れたならば、
バカげたことを垂れ流し続ける
TVでも見て笑うのも
決して悪いことではないのかも
知れません。

ノーベル賞作家・
ピランデッロの傑作短篇。
秋の読書にどうぞ。

※みなさんは
 どんな夢を見ていますか。
 私はいつも夢を見るのですが、
 幸せな夢は
 1週間に1回くらいでしょうか。

(2019.9.9)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA