プライベートを切り売りした作家、谷崎
「文豪ナビ 谷崎潤一郎」
(新潮文庫編)新潮文庫
4年前の2015年に、
文豪・谷崎潤一郎の未公開書簡288通が
発見されています。
手紙は「細雪」のモデルとなった
谷崎の妻・松子やその妹・重子と
交わしたものだそうです。
「忠僕として御奉公申上げ
主従の分を守り候」とする
松子への結婚誓約書もあったようです。
中公文庫には
「谷崎潤一郎=渡辺千萬子往復書簡」と
いうのもあります
(所有しているのですが、
まだ読んでいません)。
今回発見されたラヴレター集も、
そのうち「谷崎潤一郎恋文集」として
出版されるのかもと思っているうち、
4年たってしまいました。
さて、
文豪ナビシリーズと題された本書、
谷崎をある程度読んでしまった私には、
読書ガイドとしては
全く役立ちませんでしたが、
資料としては
面白く読むことができました。
谷崎初期の作品である「前科者」
「柳湯の事件」「呪はれた戯曲」での
悪人の考え方は、若い頃の
谷崎の思想そのものなのでした。
「前科者」の終末、
「己はたしかに悪人だ。」
「それ故どうか其の積りで、
己を出来るだけ卑しみ、疎んじ、
遠ざけてくれ。」
「ただ其の代り、己の藝術だけは
本物だと思ってくれ。」という台詞は、
案外本音なのだろうと思われます。
そして、愛人・せい子との同棲体験から
「痴人の愛」の妖婦「ナオミ」が
生み出されたようです。
羨ましいかぎりです。
決して共感できないのですが。
名作「春琴抄」は、
今回の手紙が発見される以前から
明らかであるように、
3番目の妻松子を女神のように
敬っていたことから生まれたようです。
晩年の作品「瘋癲老人日記」は、
前述した渡辺千萬子
(松子と前夫の間の息子の妻)と
自分との関係を下敷きにして書いた
小説らしいのです。
年をとってもこうは
なりたくないのですが。
こうしてみると、谷崎は
自分の性体験・性的嗜好・女性遍歴等・
プライベートを切り売りしてきた
作家だったということがわかります。
もっとも、そのままではなく、
相当デフォルメ
しているのでしょうけれど。
作家についての資料的な書物は、
一般に値段が高いのですが、
文庫本のため、きわめて安価です。
これから谷崎を読んでみようと
思っている方にお薦めです。
(2019.12.2)