おじょうちゃんは場面ごとにその装いが変化している
「赤とんぼ」(新美南吉)
(絵:ねこ助)立東舎
前回取り上げた「赤とんぼ」、なんと
立東舎刊「乙女の本棚シリーズ」に
収録されていました。
この淡々とした展開を、
どのように「乙女の本棚」らしく
仕上げているのか、
わくわくしながら読み始めました。
なんと赤とんぼは擬人化されています。
赤い帯を締めた白い和服の少女として
描かれているのです。
一方、おじょうちゃんは
白い洋装の少女です。
両者とも同年代として
設定されているのでしょう。
両者の交流が、文章で読み味わう以上に
確かなものとして感じ取ることができる
しくみになっています。
3回ほど読み返して
気付いたことがあります。
絵に登場するのは
赤とんぼとおじょうちゃんだけです
(書生は指だけが1回だけ登場する)。
赤とんぼの姿は
最後まで変わらないのですが、
おじょうちゃんは場面ごとに
その装いが変化しているのです。
1回目:別荘にやってきた場面では
白い洋服と赤いリボンのついた帽子。
これは赤とんぼの姿と
共通項の多い姿です。
2回目:庭での行水の場面。
白いワンピースを着ています
(当然ですが裸体は描かれていません、
行水ではなく庭の散水に
置き換えられています)。
3回目:書生から
赤とんぼの話を聞く場面。
ここでは灰色のワンピースに
なっています。
そして4回目:別荘を離れる場面。
ここでは濃紺の洋服が描かれています。
変わらない赤とんぼと
変わっていくおじょうちゃん。
そしてはじめは両者が
和服と洋装の違いだけだったのが、
次第にその姿の乖離が大きくなっていく
仕掛けになっているのです。
つまりこれは
一夏を過ごした時間の中での、
お嬢ちゃんの成長を表しているものと
推察できます。
新美南吉の本文を何度読み返しても
そうした部分は読み取れません。
これはイラストレーター・ねこ助の
考えた解釈であり表現なのでしょう。
本書におけるイラストの役割は、
単なる作品世界の視覚化ではなく、
大正生まれの作家の作品に対しての、
現代の新たな息吹の
注入にあったのです。
赤とんぼとおじょうちゃんの
交流の終了する最後の場面は、
実はおじょうちゃんの転居による
距離的な隔離だけではなく、
大人へと一歩成長したおじょうちゃんと
その時間に止まり続けている
赤とんぼとの時間的な別離の
両方が感じられ、郷愁の念が
一段と強まって感じられます。
文と絵の見事な合わせ技を
見せられました。
乙女の本棚シリーズ、
やはり侮ることはできません。
(2019.12.12)
【青空文庫】
「赤とんぼ」(新美南吉)