まずはこの一作から読め!~明治・大正の短編集
以前も書きました。
長編小説には
長編小説の魅力がありますが、
短編には
短編のおもしろさがあります。
日本語を噛みしめながら読みたい
明治・大正期の短編小説集8冊を
セレクトしました。
その1:
「李陵・山月記」中島敦
詩人を志した李徵(りちょう)は、
その道に挫折し、発狂し、
ついには闇の中へ消え、
虎となる。
一年後、
明け方に通りかかった
袁慘(えんさん)をかつての友と
認めることのできた李徵は、
自分が虎になった
いきさつを語る…。
(「山月記」)
その2:
「台所のおと」幸田文
病床にある佐吉は、
台所で働く妻の音を聞こうと
寝返りを打つ。
妻・あきは、夫の治らざる
病状を悟られまいと、
気持ちを押しとどめて立ち働く。
しかし、
佐吉はあきの「音」の変化に
気付いていた…。
その3:
「檸檬」梶井基次郎
「えたいの知れない不吉な塊」が
心を終始押さえつけていたある日、
「私」はお気に入りの果物屋で
檸檬を一つ買う。
それを握った瞬間から、
「私」の「不吉な塊」は緩み始めた。
そこで「私」は
久しぶりに書店「丸善」に
寄ってみたところ…。
(「檸檬」)
その4:
「山椒魚」井伏鱒二
二年間の成長で、
頭が出口につっかえ、
岩屋から出られなくなった山椒魚。
どうせ出られないならと、山椒魚は
岩屋に迷い込んできた蛙を、
出口を塞いで閉じ込めてしまう。
二匹がお互いにいがみ合ううち、
二年の月日が流れる…。
(「山椒魚」)
その5:
「羅生門・鼻」(芥川龍之介)
京の都が衰微していた頃、
行き場を失った下人が
羅生門で一夜の宿を
取ろうとしていた。
幾つもの屍骸が
散乱しているその中で、
女の屍体から髪の毛を
抜き取っている老婆を
下人は目撃する。
下人は老婆を取り押さえ、
詰問する…。
(「羅生門」)
その6:
「藤十郎の恋・恩讐の彼方に」菊池寛
主殺しを犯して
脱藩した市九郎は、
強請や強盗など罪を重ねる。
しかし自分の罪過を思い知り、
仏門へ帰依した市九郎は、
天下の難所に
隧道を通すことを決意する。
二十年後、
主人の遺子・実之助が、ついに
市九郎の行方を捜し出す…。
(「恩讐の彼方に」)
その7:
「小僧の神様・城の崎にて」志賀直哉
赤西蠣太は、
完成した「報告書」を疑われずに
持ち出すための方策を
鱒次郎と話しあい、
美女の小江に
艶書を送ることにした。
ふられて体面を保つために
家を出たことにするのだ。
ところが小江からの返事には
蠣太を尊敬していると…。
(「赤西蠣太」)
その8:
「山椒大夫・高瀬舟」森鴎外
高瀬舟護送役の同心・羽田は、
これまで見たことのないようすの
罪人に立ち会う。
唯一の肉親である弟を
殺害した咎で島送りになる
喜助である。
これだけの罪を犯したというのに、
その顔は晴れ晴れとしていた。
羽田は喜助に尋ねる…。
(「高瀬舟」)
読むと背筋がしゃきっとするような
格調高い日本語ばかりです。
中学生の段階で出会い、
大人になって再読する。
何度でも新しい発見と感動があります。
名作とはそういうものです。
大人のあなたもいかがでしょうか。
(2020.4.30)