まさに職人芸ともいえる乱歩の創作姿勢
「ふしぎな人」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩全集第21巻」)
光文社文庫
きむらたけしくんと
いもうとのきみ子ちゃんは、
まほうつかいといわれる
林さんのうちへあそびに行って、
いろいろふしぎなことを
みました。
「たけしくんもきみ子ちゃんも、
もうじゅうのひょうに
なってみたいとは
おもわないかね」…。
本作品の特徴①
ひらがな、途中から漢字が増える
ほとんどひらがなだけで
綴られた本作品、
読みにくさこの上なしです。
「それは、あけちたんていの
じょしゅの小林しょうねん
だったのです。
さすがの四十めんそうも、」と、
人名までひらがな。
ところが途中から変わります。
「それは、名たんてい明智小五郎の
助手の小林くんだったのです。」
それもそのはず、本作品は
最初「たのしい二年生」に連載
(1958年8月〜1959年3月)された後、
続けて「たのしい三年生」
(1959年4月〜12月)に
引き継がれたのですから。
進級によって、
使える漢字が増えたのです。
このような作品ですので、
少年探偵団シリーズでありながらも
ポプラ社の全集には
収録されなかったのです。
本作品の特徴②
いきなり子どもたちが拉致される
年端もいかない小学校低学年の
兄妹二人が、
いきなり二十面相に拉致される場面から
スタートします。
猛獣のいる檻の中に
入れられたかと思えば、
真っ暗な穴の中に押し込められる。
潜水艇に入れられたかと思えば
ヘリコプターに乗せられ、
人質として振り回される。
大人目線で考えると
荒唐無稽なだけなのですが、
子どもになりきって想像すると、
極めてスリリングな冒険の連続です。
本作品の特徴③
とりわけ小さな少年探偵団員の活躍
これまでの
少年探偵団シリーズであれば、
活躍するのは団長である小林少年、
あとは井上・野呂の
二少年コンビでしたが、
今回はとりわけ小さな少年団員・
ポケット小僧が大活躍します。
二十面相が入り込んでいる屋敷に
単独潜入し、
機転を利かせて宝石が盗み出されるのを
阻止するだけでなく、
ピストルで脅して
二十面相を足止めまでするのです。
このように見ていくと、
読み手となる子どもたちの
目の高さに合わせて物語を作り上げる、
乱歩の旺盛なサービス精神を
感じてなりません。
まさに職人芸ともいえる創作姿勢です。
だからこそ当時の子どもたちは
乱歩にはまり、
読書にはまったのです。
この国の子どもたちの読書活動に
最も貢献したのは、
実は乱歩だったのかもしれません。
(2020.8.16)
【青空文庫】
「ふしぎな人」(江戸川乱歩)