隆法と道臣に見られる、父親像としての共通性
「父の婚礼」(上司小剣)
(「鱧の皮 他五篇」)岩波文庫

竹丸の父親は人に年齢を
尋ねられるのが嫌い。
それなりの歳なのだが、
未だに若い衆とともに
夜遊びに出掛けている。
その父親がお時さんと
再婚するという。
竹丸は下女のお駒さんに
母親になって欲しいという
思いを持っていた…。
両親の離婚もそうですが、
再婚も子どもにとって
いろいろな影響があるものです。
明治の作家・上司小剣の
書いた本作品は、
父一人子一人の家庭での、
遊び人の父親の再婚話に関わる
子どもの気持ちの揺れを
描いたものです。
とはいえ、語り手「自分」=竹丸は
まだ12歳ですので、
反抗してぐれる、というような
ものではありません。
ここで注目したいのは、
以前取り上げた上司の
「ごりがん」に登場する隆法と
本作品での竹丸父・道臣には、
父親像として
共通性が見られるということです。
父親像の共通性①
自分の考えを押し通す
隆法はその作品名の通り
「ごりがん」ですが、
本作品の道臣もまた
我が道を行く男です。
子どものことなど考えているそぶりは
見られません。
父親像の共通性②
変なところに几帳面
隆法は傷のついた器が嫌いで、
客の家で出された茶碗にさえ
文句を言っています。
道臣もまた細かい男です。
高級な炭だけを使い、
それを「弦の附いた鋸で尺をあてつつ、
その炭を同じ長さに切つて、
大匏の横腹を刳り拔いた炭取に入れた。
父はそれを切り上げるのに
半日を費した。」
細かすぎます。
父親像の共通性③
珍味が大好き
隆法は死ぬ間際に
「鮒の雀燒き」を所望しましたが、
道臣は本作品中で
「海鼠腸」(ナマコの内臓の塩辛)と
「杉菜の佃煮」を
来客に得意顔で振る舞っています。
父親像の共通性④
そう見えないがどちらも宗教家
隆法は願念寺の住職、道臣は神主です。
調べてみると上司小剣の父親が
やはり神主であり、
父親の二度目、三度目の結婚に
立ち会っていたということが
わかりました。
少なくとも本作品の道臣は、
小剣の父親がモデルであり、
隆法にもそれを投影させていたのでは
ないかと推測されます。
両作品ともにあまり良い父親としては
描かれていません。
小剣は父親の再婚を好意的には
見ていなかったのではないかと
思われます。
「もう昨夜かぎり、
父と同じ蒲團に寢ることは出來ぬ」で
締めくくられる本作品。
少年の静かな寂しさが
浮かび上がります。
※共通性③だけはもしかしたら
父親ではなく小剣自身の
趣味だったのかも知れません。
(2021.9.1)

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