「凜として弓を引く」(碧野圭)

高校生、でも部活動ではない

「凜として弓を引く」(碧野圭)
 講談社文庫

一週間ももたずにテニス部を
退部した楓は、このまま
帰宅部になる覚悟だった。
しかし玄関先で待っていたのは、
弓道の無料体験講座で一緒だった
善美だった。無口な善美に
引きずられるようにして、
楓は弓道場へ連れて行かれる…。

スポーツ小説というジャンルが
確立しつつあります。
当サイトでも陸上競技では
「風が強く吹いている」(三浦しをん)、
「走れ、セナ」(香坂直)、
野球では
「十二番目の天使」(マンディーノ)、
「野球部ひとり」(朝倉宏景)、
テニスの
「大きくなる日」(佐川光晴)等々、
いくつか取り上げてきました。
でも本作品はマニアックです。
弓道
未知の世界であるため、
楽しく読むことができました。

本作品の味わいどころ①
弓道の魅力を味わう

これだけスポーツの世界が
幅広くテレビ放送されるように
なったとはいえ、依然弓道は、
一般人には見えにくい
競技なのではないでしょうか。
派手なゼスチャーや
パフォーマンスもなく、
淡々と的を射る。
画面ごしの鑑賞に、
これだけ不向きな競技は
ないのではないかと思われます。
そうした弓道の、
体験した者でなければわからないような
独特の「感性」「雰囲気」「情感」が
随所に盛り込まれ、
あたかも読み手自身が
弓道場に立っているかのような
臨場感を満喫できます。
弓道の魅力を知ることができます。

本作品の味わいどころ②
日本文化の価値を考える

弓道は「スポーツ」と割り切ることの
できない何かを持っています。
柔道・剣道と同様、
日本の武道だからです。
本作品は、
弓道の競技としての面白さだけでなく、
日本文化との繋がりも
明らかにしています。
日常生活の中にこそ
弓道の極意があることを諭し、
日本文化の再発見のための
気づきをもたらしてくれます。

本作品の味わいどころ③
高校生、でも部活動ではない

主人公の楓は高校生です。
しかし本作品の舞台は
高校の弓道部ではありません。
神社内に設営されている弓道場での
「弓道会」なのです。したがって、
中学生もいればお年寄りもいる、
異年齢集団です。
部活動という狭い世界ではなく、
幅広い人間関係から
楓は学んでいきます。
厳しい練習ではない分、
楓は自らの意志で取り組んでいきます。
目先の大会等がないため、
楓は落ち着いて自分のペースで
着実に歩んでいけるのです。
「高校生のスポーツ=部活動」という
概念を打ち破る新しい試みです。

高校生が主人公ですが、
中学生にぜひ読んで欲しい一冊です。
部活動だけが
高校生活ではありません。
地域のスポーツクラブや
日本の伝統競技など、
視野を広げると
いろいろな活躍の場があることに
気づくきっかけになればと思います。

(2022.5.2)

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