「漫画 吾輩は猫である」(近藤浩一路)

登場人物の顔はすべてデフォルメ

「漫画 吾輩は猫である」(近藤浩一路)
 岩波文庫

「漫画 吾輩は猫である」岩波文庫

吾輩の主人は
さる学校の教師である。
学校から帰って来ると
一日書斎に閉じ籠るのが癖だ。
大変勉強家のようだが
事実は正反対で、
吾輩は時々忍び足で、
彼の書斎を覗いて見るが、
彼はよく昼寝をしている。
しかもその読みかけて…。

先日、夏目漱石「吾輩は猫である」
取り上げましたが、
思い出したのが本書です。
五年ほど前に岩波文庫から
「漫画 坊ちゃん」とともに出版された、
漱石作品を漫画化した一冊です
(1919年に出版されたものの再刊)。
漫画といっても、現代のいわゆる
「コマ割り」のものではありません。
右頁にはテキスト、
左頁には一枚のイラストが
載っているだけの、
つまり「漫画」というよりも
「全見開き頁に挿絵が
載っている本」といった案配です。
これがまた面白いのです。

「漫画 吾輩は猫である」岩波文庫

登場人物の顔は
すべてデフォルメされて描かれ、
主人(苦沙弥)=漱石は、
この頃38歳なのですが、
かなりくたびれた
オジサンのように見え、
寒月は若さのないひょろ長い顔、
迷亭は美学者というより落語家の風貌、
鼻子は顔のかなりの部分を鼻が占め、
武右衛門はどう見ても「福助」です。
現代でいうところの
「ヘタウマ」でしょうか。
それがまた味わいがあるのです。
なお、この時代の
「漫画」の考え方については
「漫画 坊ちゃん」に記しましたので、
合わせてご覧下さい。

「漫画 吾輩は猫である」岩波文庫

ただし、この本を読んで
「吾輩は猫である」を読んだ気になっては
いけないというところが
注意点でしょうか。
テキストはほんの一部だけを
取りだして簡略化してあります。
作品の表面的な面白さだけを抽出し、
漱石の文明批判や日本語の美しさ等は
まったく味わうことはできません。
ここが「漫画 坊っちゃん」と
異なるところでしょうか。

「漫画 吾輩は猫である」岩波文庫

それにしても近藤浩一路なる作家、
謎の多い人物です。
調べてみると水墨画などを得意とする、
れっきとした日本画家でした。
ウィキペディアを見ると、
「写実主義的手法や光線表現など
洋画手法取り入れ、
カラリスト浩一路と評された」と
あります。
また、静岡県立美術館のサイト内には
近藤浩一路の絵が数点、
公開されています。
こちらからご覧いただけます。

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単なる挿絵画家でもなく、
ましてやヘタウマ漫画家などでも
ないということが分かります。

おそらくは
漱石生誕150年ということで
出版された(2017年)であろう本書、
2022年10月現在、
まだ流通しているようですが、
在庫が尽きれば絶版になるのは
目に見えています。
興味を覚えた方はお早めにどうぞ。

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(2022.10.31)

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