「30センチの冒険」(三崎亜記)

ファンタジー、それも異世界迷い込み

「30センチの冒険」(三崎亜記)
 文春文庫

「30センチの冒険」文春文庫

ユーリが迷い込んだ世界は、
距離の概念を失い、
人々が自由に行き来のできない
街だった。街はまもなく
「鼓笛隊」の襲撃により、
壊滅の危機を迎えるのだという。
彼は、自分を助けてくれた
女性・エナとともに、
世界の出口を探すが…。

最近、現代作家の作品から
遠ざかっていたのですが、
書店でふと手にした本書、
「冒険」というワードを含んだ表題、
不思議な感覚の装丁画にひかれ、
読んでみました。
予想通りのファンタジー、
それも異世界迷い込み型、
私の大好きなジャンルです。

【主要登場人物】
「僕」(ユーリ・悠里)
…図書館司書として働いている青年。
 寝過ごしたバスの終点で
 異世界に迷い込む。
エナ
…異世界に迷い込んだユーリを
 救った女性。四十代半ば。
 ユーリ渡来の影響を受け、
 次第に若返っていく。
司政官(オリス)
…かつて辺境の地に住んでいたが、
 街の危機を救い、司政官となる。
書記官
…穏やかな性格の役人。
クロダ博士
…街を救うための研究をしている。
トビー
…ユーリ以前に現れた渡来人。
 ミイラ化しているが生きている。
ムキ
…諦めずに何かの訓練をしている青年。
鼓笛隊
…人々を連れ去る魔物。
 音色を聴いた人々は、その隊列に
 組み込まれ、一生歩き続ける。
測量長(ナザル)
…砂漠を探検できる能力を持つ
 測量士の長。老人。
マルト
…有能な測量士見習いの少年。
ネハリ
…街の地図を記憶し、大地を安定させる
 能力を持つ女性(の役職)。
 エナの母親は先代のネハリだった。
マカ
…ネハリの継承者だった少女。
 突然失踪した。ムキの幼馴染み。
統治者
…世界を統治していたが、
 人類を見限り、世界から去る。
本を統べる者
…生きている本を管理する。
 統治者のいない世界を見守る。
ノザキ…像の墓場守。
野崎…現実世界での動物園の飼育係。
ウノキ…貯刻地の管理人。
鵜木…現実世界での図書館のお姉さん。

【異世界の設定】
距離感がカオス状態

…距離は無秩序。
 建物はそのときどきで高さを変える。
 既存の建物内部は
 その影響を受けない。
屋外は行動制御不能
…見えていてもその手を掴むことは
 できない。屋外はそのまま別世界。
大地を安定させるネハリ
…ネハリの力により、大地は安定し、
 人々は自由に歩くことができる。
襲来する魔物
…幻惑させる「砂」、
 夜中に襲い来る「何か」、
 そして人々を連れ去る「鼓笛隊」。
 街は危険だらけ。
ものさしのない世界
…距離を測定する道具の失われた世界。
 目盛りを刻みつけると
 その物体は消滅。
世界を見捨てた「統治者」
…二度のカタストロフをもたらし、
 統治者は人類を見限る。
渡来人の影響を受ける発見者
…トビーの発見者は身体が収縮し、
 消滅。
 ユーリを発見したエナは、
 次第に若返る。
生きている本
…本は意志を持ち、人々のもとを離れ、
 「本を統べる者」の管理下にある。
 街には本は存在しない。
世界をつなぐ「バス」
…ユーリが乗り込んだバス。
 いつどこに現れるかわからない。
現実世界を忘却
…世界をまたぐことにより、以前の
 記憶を失う。ユーリは図書館司書
 だったことしか覚えていない。

奇妙な世界が描かれているのですが、
作者・三崎亜記(涼しげな女性を
イメージしていましたが、
調べたら男性だった!)の作品の
タイトルを調べてみると、
「鼓笛隊の襲来」「バスジャック」
「失われた町」など、
本作品の筋書きに関連するようなものが
いくつか見られます。
もしかしたら本作品の世界観は、
作者の頭の中
そのものなのかも知れません。

下手に筋書きや読みどころを
紹介するよりも、
登場人物や異世界設定を
書き上げた方が作品理解に
つながるのではないかと思い、
ここでとどめておきます。
異世界に迷い込んだ青年が、
滅びかけた世界を救うきっかけとなる、
異世界で知り合った女性は、
現実世界で再び巡り会う、
「ありがちな」といってしまえば
それまでですが、
その「ありがちな」設定に則りながらも、
緻密な構成によって異世界を構築し、
読み手を引きつけて離さない、
ファンタジーの王道を行く作品です。

全400頁とやや厚手ですが、
一気に読み終えてしまいました。
最後の「エピローグ」は圧巻です。
読書の秋に味わうファンタジーとして、
中学生にぜひ薦めたい一冊です。

※出版社による作品紹介が、
 YouTubeで公開されています。

【文庫化】『30センチの冒険』をより楽しむために【記念】

(2022.11.21)

FelipeによるPixabayからの画像

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以下の記事をリニューアルしました。

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