「人を呪わば」(コリンズ)

ユーモラス、書簡形式、最後に毒

「人を呪わば」(コリンズ/中村能三訳)
(「世界推理短編傑作集1」)
 創元推理文庫

「世界推理短編傑作集1」

ある重大事件が起こって、
きみの助力を
願わなければならなくなった。
当課でも、
経験豊富な人物のあらゆる努力を
必要とする事件だ。
現在きみが捜査にあたっている
盗難事件は、
本書面を持参する青年に
ひきついでいただきたい…。

過去(明治・大正・昭和初期)の
日本のミステリを探すと
面白いものがいくつも見つかりますが、
海外に目を移しても同様です。
こんな素敵なミステリがあったのかと、
今さらながらその芳醇な世界に
魅了されてしまいます(単に
私が知らなかっただけなのですが)。
この一篇も素敵です。
コリンズの「人を呪わば」。
全篇が書簡形式で綴られ、
その中で謎解きが行われます。

【主要登場人物】
〔書簡のやりとりをする捜査関係者〕
フランシス・シークストン
…捜査課首席警部。
 盗難事件の捜査をシャーピンに
 引き継ぐようバルマーに指示する。
トマス・バルマー
…捜査課部長刑事。
 大きな事件の捜査支援のため、
 手がけていた盗難事件を
 シャーピンに引き継ぐ。
マシュウ・シャーピン
…捜査課新入職員。
 大物のコネによって配属された若者。
 無能力だがうぬぼれが強い。
〔書簡に登場する関係者〕
ヤットマン
…なけなしの金を入れた金箱を
 寝床から盗まれる。
ヤットマン夫人
…ヤットマンの奥方。美人。
ジェイ
…ヤットマンの家の間借り人。
 フリーライター。
店員
…ヤットマン宅の住み込みの店員。
家政婦
…ヤットマン宅の住み込みの家政婦。
ジャック
…ジェイと一緒に密談していた男。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
シャーピンの滑稽さ

冒頭から妙な雰囲気が漂っています。
枕元に置いた金箱の盗難でミステリ?
身内の犯行以外に考えられないのでは?
疑問がいくつも湧き出します。
そして上司からの評判芳しからぬ
若者の登場。
この若者・シャーピンが
鋭い推理をはたらかせて
単純な事件の裏に潜んでいた
巨悪を暴き出すのか、と思って
読み進めると、
彼はヤットマン宅の部屋を間借りし、
怪しいとにらんだジェイの隣部屋から
壁に穴を開け、見張りをするという
間の抜けた行動を取り始めます。
彼の間抜け捜査は
それだけに止まりません。
中盤まで読んで始めて
ユーモア小説であることに
気づきました。

本作品の味わいどころ②
バルマーの有能さ

そして終盤、
バルマー部長刑事が事件捜査に再出馬、
ものの数分で真相を見抜き、
さらにものの数時間で
事件を完全解決させてしまいます。
バルマーもシークストンも、
溌剌とした若者を妬む
ただの年寄りとばかり
思っていましたが、
きわめて有能な捜査官だったのです。
二人ともシャーピンからの
間抜けな報告書を一読しただけで
事件の真相を
つかむことができたのですから。

本作品の味わいどころ③
作者コリンズの意地悪さ

その二人の間で交わされた書簡の一節。
「まあ読んでみたまえ。
 このうぬぼれ屋のあほう者は、
 ほんとの筋だけを残し、
 ほかはあらゆる筋で犯人を
 追っていたことがわかるだろう。
 きみなら五分間で
 真犯人を捕まえることができる」

えっ、そうなの。まずい。
慌てて前の文章を
何カ所か読み返してしまいました。
何のことはない、この一節は
読者への挑戦なのです
(巻末の解説も
そのことを指摘しています)。
シャーピンの阿呆さ加減を
あざ笑いながら
ぼんやり読み進めてきた読み手は、
ここで作者から
「何だ、君もシャーピンと同じだね」と、
きついお灸を据えられるわけです。

これだけユーモラスな筋書きを
書簡体形式で表し、
かつ最後に毒を添える。
何とも上質なミステリです。
作者コリンズは長編ミステリとしては
「月長石」と「白衣の女」が有名です。
特に「白衣の女」は、
あの宮崎駿が
映画「ルパン三世カリオストロの城」の
モチーフにした
江戸川乱歩「幽霊塔」の、
源作品だった黒岩涙香「幽霊塔」の、
翻訳元作品である「灰色の女」を書いた
A.M.ウィリアムスン
参考にした長編であり
(長い説明で申し訳ありません)、
それゆえ次に読んでおきたいと
思っていた作品でもあります。

やはり本の海は広くて深いのだと
改めて感じます。
海外古典ミステリに、はまりそうです。

(2023.1.5)

PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

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