「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅱ」(三上延)

筋書きや作品構造そのものが「横溝っぽい」のです。

「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅱ」
(三上延)メディアワークス文庫

「ビブリア古書堂の事件手帳Ⅱ」

訪れた上島家は、
旧華族に連なる
由緒ある家だった。
女主人の死とともに
忽然と姿を消した一冊の古書。
その捜索が栞子・大輔夫婦の
受けた依頼だった。
盗んだのは女主人の
二人の妹のうちどちらからしい。
だがその二人には確執が…。

「ビブリア古書堂の事件手帳」
第2シリーズ第2巻を読了しました。
内容は全篇横溝正史
もっと早く読む予定でしたが、
横溝の「雪割草」
先に読むべきであるため、
のびのびになっていました。
面白かったです。
やはり「雪割草」を知っていることが
本作品を愉しむための必須事項です。

【主要登場人物】
篠川栞子
…ビブリア古書堂店主。
 足がやや不自由。
篠川大輔
…ビブリア古書堂店員。旧姓五浦。
 栞子の夫。
篠川扉子
…栞子・大輔の娘。
 本だけが友達。
篠川文香
…栞子の妹。
篠川智恵子
…栞子の母。栞子・大輔に
 古書売買の知識を指導する。
井浦清美
…依頼主。伯母の所有する本の
 盗難について捜索を依頼。
井浦初子
…清美の母。
上島春子
…初子の双子の姉。
 二人は互いにいがみ合っている。
上島秋世
…初子・春子の姉。清美の伯母。
 横溝正史幻の作品「雪割草」と
 直筆原稿一枚を所有していた。
上島乙彦
…春子の一人息子。横溝正史マニア。
井浦創太
…清美の一人息子。横溝正史ファン。
小柳
…上島家の老家政婦。
戸山圭
…扉子と同級生。読書好きの女の子。
戸山吉信
…圭の父親。古書店「もぐら堂」経営者。
戸山茉莉子
…吉信の妻。圭の母親。
 「もぐら堂」ブックカフェを切り盛り。
井上太一郎
…古書店「ヒトリ書房」経営。

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本作品の味わいどころ①
全篇横溝正史

これまでの巻は複数冊の古書を素材に
物語が組み立てられていた
(第4巻のみ江戸川乱歩一色)のですが、
この巻はまるごと横溝正史。
横溝正史生誕120年&没後40年を
意識してのことでしょう。
数年前に発見された「雪割草」を素材に、
素敵なストーリーが展開していきます。
それだけではありません。
筋書きや作品構造そのものが
「横溝っぽい」のです。

目次の次には「上島家家系図」。
いかにも「横溝っぽさ」が漂います。
旧華族の末裔で、
親族の間に激しい確執がある。
「横溝っぽい」のです。
さらに依頼主の母と伯母は
双子の姉妹で美人。
これも「横溝っぽい」キャラクターです。
依頼された事件は
なんと出版されていない段階
(物語は2012年、
「雪割草」出版は2017年)での
横溝正史作「雪割草」の盗難事件。
犯人はどう考えても
親族の誰かであること間違いなし。
これも「横溝っぽい」設定。
しかも犯行にはトリックが。
まさに「横溝っぽい」手口。
さらにはこの「雪割草」事件、
2012年段階では全面解決にはいたらず、
9年後の2021年で
すべてが解き明かされるという
「病院坂の首縊りの家」構造。
何から何まで「横溝っぽい」のです。

本作品の味わいどころ②
物語は3つの年代を駆ける

したがって、
本作品の構造は以下の通り、
3つの年代にまたがっているのです。
プロローグ(2028年から30年の間)
第一話 横溝正史「雪割草」Ⅰ(2012年)
第二話 横溝正史「獄門島」(2021年)
第三話 横溝正史「雪割草」Ⅱ(2021年)
エピローグ(2028年から30年の間)
筋書きのメインは
「雪割草」盗難事件の顛末ですが、
間に「獄門島」を挟み込み、
栞子・大輔の娘・扉子を
上手に絡めています。
そして本編部分は大輔が
新潮文庫刊「マイブック」に記載した
手記の体裁をとり、
プロローグ・エピローグで
扉子がそれを読むという
「入れ子構造」になっているのです。
その部分は扉子が早くも高校生。
このシリーズ初の
未来を描いている部分なのです。

本作品の味わいどころ③
用意周到な作者

なぜそのような構成にしてあるか?
それは本編中に登場する
「横溝正史直筆原稿」の存在が
問題になるからです。
あまりにも都合の良い
「直筆原稿」の登場は
確かに読んでいて気になりましたが、
作者はさすがに用意周到です。
その解決が
エピローグに記されているのです。
推理するのはなんと扉子。
母親・栞子以上の能力が開眼しています。

前巻の扉子は、
栞子・大輔夫婦の過去の回想の
引き金役でしたが、
この巻ではいよいよ
扉子の活躍の片鱗が現れています。
第2シリーズ第3巻は
昨年3月にすでに発売されています。
近々読むつもりです。

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〔本書登場の横溝作品〕

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これ以外にも本作品には多くの
横溝作品が取り上げられています。
楽しいかぎりです。

※ここまでのシリーズの概要が
 ざっくり理解できる動画が
 YouTubeにありました。

100秒でわかる『ビブリア古書堂の事件手帖』

※細かなことですが、
 233頁に誤植あり。
 横溝のジュヴナイルが紹介され、
 その一つが
 「面博士」となっているのですが、
 正しくは「面博士」です。
 本書の出版元
 メディアワークス文庫は
 KADOKAWAの
 ライトノベル・レーベル。
 本家の角川文庫も先日
 横溝ジュヴナイル復刊の折、
 タイトル「面博士」の
 旧仮名遣いを嫌ったのか
 「面博士」と
 変更した経緯があります。
 もう少しタイトルに
 気を遣ってもらいたいものです。

(2023.1.16)

DorotheによるPixabayからの画像

【これまでの「ビブリア古書堂」】

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