さて、デクスターはどうするか?
「冬の夢」
(フィツジェラルド/佐伯泰樹訳)
(「百年文庫029 湖」)ポプラ社

「冬の夢」
(フィツジェラルド/飯島淳秀訳)
(「雨の朝パリに死す」)角川文庫

奔放な性格のジューディに
振り回され続けたデクスターは、
その熱が冷めた頃、
貞淑な娘・アイリーンとの
婚約に踏み切る。
しかしある晩、彼の目の前に
再びジューディが現れる。
「結婚したい」と囁く彼女に、
デクスターの心は揺れ動き…。
追い求めた理想の女性・ジューディは、
しかしその感情の長続きしない
女だったのです。
十数人の男の間を、
次から次へと移り変わっていく。
それに懲りて
距離を置こうとする男がいると、
すぐさま駆け寄って甘い言葉を囁く。
そこに悪意がない分だけ
やっかいなのです。
さて、デクスターはどうするか?
彼の身の振り方こそ、本作品の
味わいどころとなっているのです。
〔主要登場人物〕
デクスター・グリーン
…大学卒業後、事業を展開し、
後に実業家として成功する。
ジューディ・ジョーンズ
…自由奔放な性格で気が多い。
モーティマー・ジョーンズ
…ジューディの父親。
アイリーン・シェアラー
…デクスターの婚約者。
ラム・シムズ
…ジューディの夫。放蕩者。
デヴリン
…デクスターの商談相手。
ジューディの情報を伝える。
本作品の味わいどころ①
夢中になりながらも冷静な
ジューディは決してデクスター
一人のものになろうとしません。
熱しやすく冷めやすいのでしょう。
だからといって
男を手玉に取る悪女でもなければ、
次々と男を取り替える
痴女でもありません。
そのときどきで、自分の気持ちに
正直なだけなのでしょう。
デクスターはそのようなジューディに
夢中になり、振り回されます。
しかし彼は、
決して自暴自棄になどなりません。
数年後には立派に事業者として
成功を収めているのですから、
自らの身の振り方については
きわめて冷静だったと考えられます。
ジューディとの交際は
24歳から25歳にかけて。
まだまだ若い盛りなのですが、
思いは熱く、行動は冷静。
そのような大人びたキャラクターこそが
デクスターの魅力であり、
本作品の味わいどころの
一つめとなっているのです。
本作品の味わいどころ②
わかっていても陥る恋の罠
アイリーンとの婚約を一週間後に控えた
時期であるにもかかわらず、
再開したジューディから
結婚を囁かれたデクスター。
彼はどうしたか?
婚約を破棄して
ジューディとよりを戻すのです。
しかし、それも一ヶ月で破綻します。
それまでの経緯を考えれば、
彼女の言葉は
一時の感情によるものであり、
何の約束手形にもなっていないことなど
冷静な彼にはおそらくわかりすぎるほど
わかっていたものと考えられます。
それでも彼の心はジューディを求め、
結果として破綻しても、
その判断自体には
何も後悔していないのです。
実ることがないのを理解していて、
それでもあえて恋の罠に落ちる。
そして悔やむことをしない。
そのような割り切りの良さと潔さこそが
デクスターの魅力であり、
本作品の味わいどころの
二つめとなっているのです。
本作品の味わいどころ③
大切にしまい込んだ愛の幻
アイリーンとの婚約を破棄し、
ジューディとの一ヶ月の蜜月の後に
破綻を味わったデクスターですが、
その七年後、
事業者として成功を収めます。
そしてジューディの消息を聞くのです。
ジューディは…。
デクスターはジューディとの関係は
きれいさっぱり諦めたのでしょうが、
彼女への思いは
燃えさかっていたのでしょう。
その後の彼女の様子を聴き及ぶに至り、
彼は自身の中で
何かが終わりを告げたのを悟るのです。
たとえ実ることがなくとも、
心の中に自由奔放なジューディを
しっかりと
しまい込んでいたデクスター。
そのような「美しい思い出」を
心の中にしまい続けていた
純粋な精神こそが
デクスターの魅力であり、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
最後の一節が魅力的であり、
読み手にもそのやるせなさが
伝わってきます。
「ずっと以前には、
ぼくのなかに何かがあった。
だが、いまはもうなくなった。
いまはもうない、
なくなってしまった。
泣いてもむだだし、
嘆いてもむだだ。
失ったものはもう二度と
よみがえることはない」。
ロスト・ジェネレーションの作家、
フィツジェラルドのほろ苦い一篇。
眠れぬ夜にいかがでしょうか。
〔「百年文庫029 湖」収録作品〕
冬の夢 フィッツジェラルド
新月 木々高太郎
白孔雀のいるホテル 小沼丹
〔角川文庫「雨の朝パリに死す」〕
カットグラスの鉢
冬の夢
罪の赦し
金持ちの青年
雨の朝 パリに死す
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(2023.10.31)

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