「放心家組合」(バー)

「してやられた」感こそ本作品の最大の味わいどころ

「放心家組合」(バー/宇野利泰訳)
(「世界推理短編傑作集2」)
 創元推理文庫

「世界推理短編傑作集2」創元推理文庫

「放心家組合」(バー/田中鼎訳)
(「ヴァルモンの功績」)創元推理文庫

「ヴァルモンの功績」創元推理文庫

警視庁のヘイルが
持ち込んできたのは、
贋金づくりの大元の摘発という
難事件だった。
容疑者サマトリーズの自宅には、
すでに部下を
潜入させてあるという。
探偵である「私」が
調査を開始すると、
贋金ではなく、
別の事件が姿を現し…。

1905年に発表された、
海外古典ミステリの傑作です。
「シャーロック・ホームズの
ライヴァルたち」が
活躍した時代であり、
本作もその一つです。ですが…、
ホームズものを初めとする
探偵小説の中では、
きわめて異質な輝きを放っています。

〔主要登場人物〕
「私」(ユウゼーヌ・ヴァルモン)

…ロンドン在住のフランス人私立探偵。
 元パリ警察所属。
アルポート・ウェブスター
…「私」の変名。
スペンサー・ヘイル
…スコットランド・ヤード警察官。
 ヴァルモンに捜査を依頼する。
ポッジャーズ
…ヘイルの部下。事件の容疑者邸に
 執事になりすまして
 潜入捜査している。
ラルフ・サマトリーズ
…ヘイルが贋金づくりの主犯と
 嫌疑をかけた人物。
 執筆業で身を立てているらしい。
J.シンプソン
…骨董店主。実はサマトリーズの
 変装したもう一つの姿。
ウイロビイ博士
…自称放心症治療の権威。
ロッジャーズ…骨董店の店員。
ティレル…骨董店の店員。
アンガス・マックファーソン
…骨董店の店員。「私」の追及を受ける。

本作品の味わいどころ①
米大統領選挙にも絡んだ贋金づくり、
ところが…

ヘイルが持ち込んだ事件は、
アメリカ大統領選挙での
有力候補者落選に繋がった
銀贋金鋳造事件の黒幕を暴くという、
スケールの大きいものです。
容疑者の目星はつけているものの、
内偵捜査をしても
一向に証拠がつかめない。
そこで「私」=名探偵ヴァルモンの
出番となるのです。

「私」は早々と容疑者サマトリーズが
贋金鋳造とは無関係であることを
見抜きます。
そして彼の不可解な行動の謎を解き、
別の事件を起こしていることを
突き止めるのです。
その事件とは、「詐欺」なのですが、
ぜひ読んで確かめてください。
いきなりスケールが
大幅に縮小した感が拭えません。
その違和感こそ、本作品の
第一の味わいどころといえるのです。

本作品の味わいどころ②
証拠をつかみ犯行集団の一人を尋問、
ところが…

「私」は自らの仮説を証明するために、
ヘイルの部下と示し合わせ、
容疑者宅で証拠書類を押収し、
その上で犯罪グループの一人と接触、
その男を自宅に呼び寄せ、
ヘイルとともに尋問を開始します。
犯人グループの一人・
マックファーソンの自白から、
主犯格の人物の動かぬ証拠を
つかもうとするのです。
探偵小説でよく見られる手法です。

犯人もしたたかであり、
容易に尋問に落ちません。
「私」&ヘイルvsマックファーソンの
丁々発止のやりとりが見物です。
頁数が残りわずかになっても
陥落しない犯人。
最後に大逆転劇と
なるところなのですが…、
そうなりません。
ぜひ読んで確かめてください。
読み終えると
「何だこれはいったい?」という
とまどいに襲われます。
その虚無感こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。

本作品の味わいどころ③
天才肌の名探偵が事件の真相を解明、
ところが…

「私」はホームズ級の自信家であり、
ところどころにヘイルを見下した感情を
吐露しています。
また、「すでに事件は解決した」感を
醸し出し、いかにもこれから謎解きが
始まる気配を漂わせているのです。
しかし実際は…、このような探偵は、
他に探しても見つからないでしょう。

で、結局はパロディなのです。
ドイル「赤毛組合」では、
赤毛の者に金を払うという
珍奇な商売が、
じつは大事件の隠れ蓑だったのに対し、
本作品では大事件の容疑者が
卑小な詐欺グループの主犯だったという
「オチ」となっているのです。
そして多くの探偵が
当たり前のように行っている捜査の
多くが「不正」で「違法」なものであり、
知能レベルの高い犯罪者にかかっては、
逆襲される可能性があるという、
相当な皮肉を込めた
内容となっているのです。
そうした諸々の顛末も、
ぜひ読んで確かめてください。
いずれにしても、
この「してやられた」感こそが、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。

やはり古典ミステリは面白い。
とりわけホームズとその周辺は面白い。
そう思わずにはいられません。
モリスンの探偵ヒューイット、
オルツィの隅の老人、
フットレルの思考機械も
素敵なのですが、
このヴァルモンもそれらとは
別の意味で魅力溢れる探偵です。
ぜひご賞味ください。

〔ヴァルモン・シリーズ〕
この探偵ヴァルモンのシリーズは、
他に六篇があり、作品集として
まとまって出版されています。
ヴァルモンは探偵として
「名」なのか「迷」なのかについては、
その作品集を読んで
判断するしかないでしょう。
幸いなことに2010年には国書刊行会から
「ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利」
(平山雄一訳)、
2020年には創元推理文庫から
「ヴァルモンの功績」(田中鼎訳)が、
それぞれ出版されています。
注目です。
私は創元推理文庫版を
すぐさま購入しました。
田中鼎訳はさらに
面白さが加わっています。
近いうちに取り上げたいと思います。

(2024.2.9)

〔「ヴァルモンの功績」〕
〈ダイヤの頸飾り〉事件
爆弾の運命
手掛かりは銀の匙
チゼルリッグ卿の遺産
放心家組合
内反足の幽霊
ワイオミング・エドの釈放
レディ・アリシアのエメラルド
シャーロー・コームズの冒険
第二の分け前

〔「世界推理短編傑作集2」〕
放心家組合 バー
奇妙な跡 グロラー
奇妙な足音 チェスタトン
赤い絹の肩かけ ルブラン
オスカー・ブロズキー事件 フリーマン
ギルバート・マレル卿の絵
 ホワイトチャーチ
ブルックベンド荘の悲劇 ブラマ
ズームドルフ事件 ポースト
急行列車内の謎 クロフツ

〔「世界推理短編傑作集1」より〕

〔「世界推理短編傑作集」〕

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