「流されて」(キロガ)

わずか9頁、息詰まる筋書きが超スピーディに展開

「流されて」(キロガ/田中志保子訳)
(「百年文庫045 地」)ポプラ社

「百年文庫045 地」ポプラ社

男は何か
やわらかい物を踏みつけた。
と、すぐに
足にかみつかれたのが分かった。
前の方へ跳んで、
悪態をつきながら振り返ると、
そこに、次なる攻撃に備えて
とぐろを巻いているヤララクスー
(アメリカハブ)がいた。
男はすばやく…。

毒蛇に咬まれる。
交通の便がよいところであれば、
血清療法の普及した現代では、
生命の危機は回避できるでしょう。
しかし前世紀初頭の南米であれば、
決してそうはいきません。
死に直面する事態も起きるのです。
さて、
本作品の主人公「男」はどうするか?
百年文庫のゆとりある組版ですら
わずか9頁の掌編。
息詰まる筋書きが
超スピーディに展開します。

〔登場人物〕
「男」(パウリーノ)

…毒蛇に咬まれ、命の危機に直面する。
「妻」(ドロテア)…「男」の妻。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
絶体絶命!緊急事態に支援なし

ハブに咬まれた。
現代日本でも咬まれた当人は
パニックになるでしょう。
しかも南米のアメリカハブは
日本のハブより高い毒性
(咬まれた部位が強い神経毒によって
次第に壊疽を起こす)を持つ種類です。

百年前の片田舎であり、
救急車もなければ病院もないのです。
いや、文章からは周囲の人の数すら
まばらだと推測されます。
「男」が行ったのは、自宅に戻り、
妻に焼酎を持ってこさせて
飲み干すこと。
そしてカヌーで川下の町まで
搬送してくれるよう友人に頼むこと。
妻はそれ以上の行為をせず(できず)、
友人も不在。
脚が壊疽しかけているのに孤立無援。
ここまで5頁。
このスリリングを、主人公になりきって
味わってみましょう。

本作品の味わいどころ②
七転八倒の末のセルフ救急搬送

したがって、
彼はカヌーまでたどり着き、
自力で下流にある町を目指すのです。
でも、下流の町までカヌーで約5時間。
それまで「男」の命は持つのか?
5時間もの間、
「男」は苦痛に耐えられるのか?
ところが…、太陽が沈みかけた頃から、
彼の気分は回復するのです。
なんとか自力のセルフ救急搬送成功。
ここまでさらに3頁。
絶体絶命の窮地を脱した喜びを、
主人公になりきって
とことん味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
最後の一行での大どんでん返し

全9頁のうち、ここまで8頁。
最後の一頁をめくると…、
たった一行、衝撃的な一行が、
読み手の目に飛び込んできます。
まさに大どんでん返し。
この一行は、まさに最後にめくられた
先になければならない一行であり、
その前の行と同じ頁に
存在してはいけない一行なのです。
出版社の組版作業を悩ませたであろう
一行、効果は絶大です。
これで物語は幕を閉じます。
この暴力的な破壊にも似た衝撃を、
主人公になりかわってしっかり
受け止め、味わいきりましょう。

と、味わいどころを紹介しましたが、
私自身、まだ本作品について
消化不良の感があります。
作者は本作品で何を伝えたかったのか?
単なるエンターテインメントで
ないことは確かですが、
私たちが読み取るべきは
人の運命のはかなさなのか、
自然の驚異なのか、
それとも対処を誤ると命を失うという
教訓なのか。
本作品以外のキロガ作品を
読み込まないと、
本作品の真の味を味わうことは
できないのかもしれません。

(2024.3.12)

〔作者キロガについて〕
さて、作者
オラシオ・キロガ(1878-1937)は
ウルグアイの作家です。
学生時代から文学活動に取り組み、
ポーやルゴーネスといった作家の影響を
受けた作風の詩を完成させています。
一時パリに渡るのですが、帰国後、
ブエノス・アイレスに移住。
アルゼンチン北部の
森林地帯に心惹かれ、
密林地と首都を往復しながら
創作生活を送りました。
本作品にはそうした密林での生活が
反映されています。
現在、次の2点が流通しています。

〔百年文庫045 地〕
羊飼イエーリ ヴェルガ
流されて キロガ
動物 武田泰淳

〔ラテンアメリカの文学はいかが〕

〔百年文庫はいかが〕

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Ondřej VídenskýによるPixabayからの画像

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