精彩を欠く三津木・由利コンビ、でも大丈夫
「悪魔の設計図」(横溝正史)
(「悪魔の設計図」)角川文庫

旅芸人一座の娘が殺された事件は、
情痴の果ての犯行と見られたが、
遺産相続をめぐる
騒動の一端であることがわかる。
三人の娘が死ぬと、
一人の男に遺産全てが
渡るのだという。
三津木俊助と由利は
三人の娘を探しだすが…。
三津木・由利コンビの
シリーズの一作です。
遺産相続という
壮大な背景がありながら、
文庫本で80頁足らずの中編ですので、
やや消化不良の感があるのは
致し方ありません。
それでも読みどころ満載です。
本作品の読みどころ①
横溝得意の遺産相続の怪
三人の娘に遺産を等配分し、
息子には与えない。
娘一人が死ねば残る二人で二等分、
二人が死ねば残った一人が全てを、
そして娘三人が死んだ場合のみ
息子に全財産が譲られる。
この殺人を呼び起こすような
横溝得意の遺言状です。
獄門島事件に似ています。
もちろんなぜそんな
不可解な遺言状を作成したのかは
後になって明らかになります。
本作品の読みどころ②
怪人物黒川弁護士の謎
事件の冒頭から暗躍する弁護士黒川。
由利先生は早々に
「こいつは怪しい」と睨むのですが、
その正体は?(それにしても
弁護士が本物かどうか、
元警察庁勤務の由利先生も
新聞記者の三津木俊助も、
調べようともしないのは
いかがなものかと思ってしまいます。)
本作品の読みどころ③
探偵コンビ以上に活躍する娘
由利・三津木コンビが
そろって出し抜かれている最中、
家中の三人娘の一人の妹・蔦代が、
姉の命を救出するばかりか、
犯人追跡まで行ってしまいます。
実は本作品の一番の名探偵役は
この蔦代なのです。
それにしても由利・三津木コンビは
両方が活躍する作品はほとんどなく、
多くの場合
どちらかが失策を重ねるのですが、
本作品においては
両者とも精彩を欠きます。
それも面白さの一つです。
本作品の読みどころ④
事件を暗示する杉本一文の表紙絵
常に作品の内容を
挿絵に反映させる杉本一文氏。
今回もよく見ると三人の娘の腕にある
水仙の刺青が、しっかりと
描かれているではありませんか。
全ての横溝作品にいえることですが、
この杉本イラストも読みどころ
(見どころ?)の一つなのです。
やや惜しいのは、
殺人の動機が薄いことでしょうか。
もし本作品に対して300頁くらいまで
改訂が施されていたならば、
その部分も深く掘り下げられ、
もっとおどろおどろしい雰囲気が
強調されていたのではないかと
想像されます。でも、そうしたら
由利・三津木シリーズではなく
金田一ものに改変されていたかも
知れません。
※本書は学生時代に買いそびれた
横溝作品十数冊の一つです。
このエロティックな表紙を
レジまで持っていく勇気が
ありませんでした。
今年(2018年)になってから
古書を入手しました。
(2018.9.3)
