「葉桜と魔笛」(太宰治)③

彩り豊かな豪華絢爛絵巻が展開されています

「葉桜と魔笛」(太宰治)
(絵:紗久楽さわ)立東舎

「乙女の本棚」シリーズを
取り上げるのも
6冊目となりました。
先日は「女生徒」でした。
こちらも同じ太宰の作品ですが、
受ける印象はまったく異なります。
艶やかな色彩美です。
本書のイラストレーター・
紗久楽さわさんは
浮世絵や歌舞伎を題材とした
漫画を著している方で、
彩り豊かな豪華絢爛絵巻が
展開されています。
こちらも文学とイラストが
素敵に調和しています。

文学とイラストの調和①
美しすぎる和服美人

これまでの
「乙女の本棚」作品のイラストは、
和服が主の時代でありながらも、
登場人物が洋装で
描かれているものがいくつかあり
(「瓶詰地獄「女生徒」)、
時代背景と齟齬を生じていました。
時代物のイラストが得意である
紗久楽さわさんが描く和服姿は、
作品としっかり融合しています。
もっとも、病床にある女性が
こんな綺麗な着物を着ているのかという
疑問は生じますが、
作品自体が
「思い出語り」の形式であるため、
これもイメージ最優先と考えれば
許せるでしょう。

文学とイラストの調和②
若さ溢れる色彩感覚

本作品は、55歳の老妻が、
自身20歳、妹18歳の頃を
回想したものです。
回想部分の二人の、
押さえつけられていても
なお溢れ出る若さが、
イラストで的確に表現されています。
だからこそ、
病で命を失った妹の無念さが、
より強く読み手に伝わってきます。

文学とイラストの調和③
書かれざることの見事な表現

「妹たちの恋愛は、
心だけのものではなかったのです。」
太宰があえて具体的に
書き表さなかった部分の
イラスト表現が秀逸です。
具体的に描くのでもなく、
まったく無視するのでもなく、
情報量としては
過不足なく描出されています。

もう一つ、これは
イラストレーターの力量というよりも
編集者の感性によるものなのですが、
テキスト部分に凝らされた工夫も
作品理解に効果を上げています。
場面の展開によりページを変え、
内容をつかみやすくしているのです。
また、地の色とテキストの色も
場面ごとに変化させ、
その場面の雰囲気を
視覚的にも醸し出しているのです。

本書の値段は1800円(税別)。
太宰の短篇一つに
1800円も投じることには
躊躇があって当然です。
本書のような作品こそ、
図書館で味わうべきと考えます。
そしてそこから書店にある
太宰の文庫本に
手が伸びるようであれば、
若者と文学の
素敵な邂逅が生まれるはずです。

(2018.11.22)

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