彩り豊かな豪華絢爛絵巻が展開されています
「葉桜と魔笛」(太宰治)
(絵:紗久楽さわ)立東舎
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2018.11.22-1.jpg)
「乙女の本棚」シリーズを
取り上げるのも
6冊目となりました。
先日は「女生徒」でした。
こちらも同じ太宰の作品ですが、
受ける印象はまったく異なります。
艶やかな色彩美です。
本書のイラストレーター・
紗久楽さわさんは
浮世絵や歌舞伎を題材とした
漫画を著している方で、
彩り豊かな豪華絢爛絵巻が
展開されています。
こちらも文学とイラストが
素敵に調和しています。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2018.11.22-2-a.jpg)
文学とイラストの調和①
美しすぎる和服美人
これまでの
「乙女の本棚」作品のイラストは、
和服が主の時代でありながらも、
登場人物が洋装で
描かれているものがいくつかあり
(「瓶詰地獄「女生徒」)、
時代背景と齟齬を生じていました。
時代物のイラストが得意である
紗久楽さわさんが描く和服姿は、
作品としっかり融合しています。
もっとも、病床にある女性が
こんな綺麗な着物を着ているのかという
疑問は生じますが、
作品自体が
「思い出語り」の形式であるため、
これもイメージ最優先と考えれば
許せるでしょう。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2018.11.22-2-b.jpg)
文学とイラストの調和②
若さ溢れる色彩感覚
本作品は、55歳の老妻が、
自身20歳、妹18歳の頃を
回想したものです。
回想部分の二人の、
押さえつけられていても
なお溢れ出る若さが、
イラストで的確に表現されています。
だからこそ、
病で命を失った妹の無念さが、
より強く読み手に伝わってきます。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2018.11.22-2-c.jpg)
文学とイラストの調和③
書かれざることの見事な表現
「妹たちの恋愛は、
心だけのものではなかったのです。」
太宰があえて具体的に
書き表さなかった部分の
イラスト表現が秀逸です。
具体的に描くのでもなく、
まったく無視するのでもなく、
情報量としては
過不足なく描出されています。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2018.11.22-2-d.jpg)
もう一つ、これは
イラストレーターの力量というよりも
編集者の感性によるものなのですが、
テキスト部分に凝らされた工夫も
作品理解に効果を上げています。
場面の展開によりページを変え、
内容をつかみやすくしているのです。
また、地の色とテキストの色も
場面ごとに変化させ、
その場面の雰囲気を
視覚的にも醸し出しているのです。
本書の値段は1800円(税別)。
太宰の短篇一つに
1800円も投じることには
躊躇があって当然です。
本書のような作品こそ、
図書館で味わうべきと考えます。
そしてそこから書店にある
太宰の文庫本に
手が伸びるようであれば、
若者と文学の
素敵な邂逅が生まれるはずです。
(2018.11.22)
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/03/2018.11.22-1-sakura.jpg)