「瓶詰地獄」(夢野久作)②

私なりの結論は「文学のデコレーション」

「瓶詰地獄」(夢野久作)
 (絵:ホノジロトヲジ)立東舎

前回、
本作「瓶詰地獄」を取り上げて、
「この作品は子どもには
薦められません。」と書きました。
それが…、
薦めたくなるような本が
出版されていました。
単なる「小説」ではありません。
「絵本」なのです。

勤務校(中学校)の図書室で見つけた
すごい一冊。
60数頁にイラストがぎっしり。
繊細な少女漫画的なイラスト。
挿絵の作者はホノジロトヲジ。
新進気鋭の
イラストレーターとのことでした。

本書を手にすれば分かるのですが、
驚くべきことに、
描かれている絵はほとんど
筋書きと合致していません。
無人島に流れ着いたはずなのに、
亜空間の教室のような舞台設定。
昭和初期の日本人兄妹なはずなのに、
ヨーロッパの
貴族のようなコスチューム。
イラストは、
本作品の理解を
助けるための挿絵としては
全く用をなさないのです。

それでいて、
そのイラストの
目も眩むほどの艶やかさ。
面妖でありながらも美しい。
よくわからないものの、
本作品の怪しげな雰囲気だけは
存分に伝わってきます。
作者・夢野が
本作品を著したのが昭和3年。
その当時の読み手は、
その内容から、もしかしたら
このイラストのような世界を
想像したのではないかと、
ついつい思ってしまいます。

このイラストの存在理由は何か?
私なりの結論は
「文学のデコレーション」。
若い人たちは
自分の身体や所有物などに
「デコレーション」を施します。
ネイルアートと呼ぶのでしょうか、
さまざまな塗料(?)や光る粒々を
貼り付けた爪を見るたびに、
50を越えたおじさんは
目眩がしてきます。
スマホのデコレーションにいたっては、
なぜ通信機器をそのように
飾り立てなければならないのか、
50を過ぎたおじさんには
理解不能です。

本作品にもそのような
イラストが必要かと問われれば、
「否」と答えるしかありません。
でも、多分若い人たちにとっては、
このデコレーションに
注目するのではないかと思うのです。

若い人たちが本書から
文学の世界に
入門してくるかどうかは別として、
暗くておどろおどろしい本作品が、
見違えるほどに華やかになったのは
事実です。
ライトノベルの類いを
読んでいる少年少女が、
本書から文学の世界に
足を踏み入れることを期待して、
紹介したいと思います。

(2018.12.1)

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