「七夜物語」(川上弘美)②

安易な解決を断固拒否する近年の「異世界迷い込み小説」

「七夜物語 上・中・下」(全三巻)
(川上弘美)朝日文庫

「夜の世界」に迷い込んだ
さよと仄田の小学校4年生二人。
さよはそこで
若き日の両親に出会い、
父と母もまた幼い日に
「夜の世界」を訪れたことを知る。
一方仄田は、
そこで級友たちから信頼を
勝ち取っている
「自分」を見つけて…。

前回本作を取り上げ、
この異世界「夜の世界」が
最終的に救われないことに触れました。
実は現実世界でも、
問題は何一つ解決しないのです。

さよの両親は、
4年前に離婚しています
(したがって小夜は母子家庭)。
その両親(結婚前の20代前半)と
「夜の世界」で出会い、
二人がやはり幼い頃に
「夜の世界」を一緒に冒険していたことを
知るのです。

読み手としては、まるで二人が
それまで共有していた「何か」を、
大人になるにつれて喪失し、
それが澱のように沈殿し、
将来の離婚に繋がったのではないかと
推察してしまいます。
となると、小夜は冒険の中で
「夜の世界」の秘密を解き明かし、
両親の離婚を防ぐか、
やり直しの道筋をつくるか
するのではないかと
期待して読みましたが、
何も起きません。
問題は何一つ解決しないのです。

「夜の世界」を訪問した二人が結ばれて
さよの父母になったのですから、
同じように
さよと仄田も将来結ばれるような
布石が打たれるのではと
期待して読みましたが、
作者はそんなかけらすら
残しませんでした。
やはり問題は何一つ解決しないのです。

さよが「夜の世界」に
迷い込む以前に出会った、
定時制高校に通う南生・麦子の
二人の男女。
異世界理解の
重要な鍵となってはいるものの、
冒頭の登場以降、
筋書きには絡んできません。
やはり問題は解決しないのです。

それがまた実にいいのです。
これまでの「異世界迷い込み小説」の
流れから想像した
読み手の安易な予想を、
すべてことごとく裏切る展開が、
実に小気味よいのです。

そもそも、
私たちは小説世界に
完全を求めすぎていたのではないかと
反省させられます。
主人公は冒険の前後で
見違えるように成長し、
主人公の抱えていた問題は
冒険とともにすべて解決され、
主人公の冒険が実は
知らないところで世界を救っていた…。
そんな「完結した小説世界」を
知らず知らずのうちに
望んでいたのではないでしょうか。

安易な解決を徹底して拒み続ける
近年の「異世界迷い込み小説」、
いかがでしょうか。

(2019.1.2)

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