「面影双紙」(横溝正史)

横溝正史らしい耽美でおどろおどろしい世界

「面影双紙」(横溝正史)
(「怪奇探偵小説傑作選2 横溝正史集」)

 ちくま文庫

薬問屋であった「私」の家には、
本物の人骨を使った骨格標本が
よく納入されていた。
あるとき女中のつるに言われて
店の骸骨を見ると、
そこには先年行方不明となった
父の足指の特徴が…。
友人R・Oが語る忌まわしい過去…。

読み手が謎解きに参加する要素もなく、
唸るようなトリックもなく、
派手なストーリー展開もありません。
しかしこれこそ
横溝正史らしさが溢れ出た、
耽美でおどろおどろしい世界なのです。

横溝正史らしいところ①:
古風な舞台設定と怪しげな人物配置

大阪の薬問屋の旧家が舞台。
「私」の母は店の美人娘。
父は手代だったが婿養子入り。
母は芝居俳優と浮き名を流し、
父はある日突然失踪する。
事件の匂いがぷんぷんします。
これで片田舎なら
完全に金田一耕助登場です。

横溝正史らしいところ②:
気味の悪いアイテムと身体的特徴

プラスチックでさえ不気味なのに、
人骨を使った骨格標本。
そして左足の指二本が癒着している
身体的欠陥。
いやがうえにも恐怖感が高まります。

横溝正史らしいところ③:
最後に明かされる呪わしい血縁

R・Oが魅せた2枚の写真は
同一人物に見えるものの、
一枚はR・O自身、
そしてもう一枚は…。
この血縁と出自が
明らかになることにより、
忌まわしい事件の真相が
解明されるしくみです。

現代のミステリー通の方からすれば
疑問符のつく作品なのですが、
この時代の探偵小説・推理小説は
みなこのような世界だったのです。
同じ匂いを漂わせているのは
もちろん江戸川乱歩ですが、
夢野久作もいます。
似たところでは
佐藤春夫や谷崎潤一郎でしょうか。

佐藤や谷崎は
ミステリーに比重を置かず、
純文学作家として大成し、
夢野は独特の文学世界を
形成しました。
乱歩はミステリーへと
突き進むのですが、
初期作品は
文学的要素の高さが認められています。
横溝正史だけが純文学とは隔離され、
推理小説専門家として
見られることが多いのですが、
初期短篇は乱歩同様、
文学性の高いものだと私は感じます。

私の大好きな横溝正史を
ようやく取り上げることができました。
本書は黒い表紙の角川文庫ではなく、
ちくま文庫刊です。
ちくま文庫はいかにも
文学作品という雰囲気が漂い、
格調が高くなったように
感じるのが不思議です。

(2019.1.6)

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