「丹夫人の化粧台」(横溝正史)

本作品の魅力は丹夫人の妖しさに尽きる

「丹夫人の化粧台」(横溝正史)
(「丹夫人の化粧台」)角川文庫

「丹夫人の化粧台」角川文庫

「丹夫人の化粧台」(横溝正史)
(「山名耕作の不思議な生活」)
 角川文庫

「山名耕作の不思議な生活」角川文庫

「丹夫人の化粧台」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション①」)柏書房

「横溝正史ミステリ短篇コレクション①」

「気をつけたまえ、
丹夫人の化粧台」。
そう言い残して事切れた友人・
初山の死を看取った高見は、
そのままずるずると
丹夫人との交際を深めていった。
逢瀬を重ねた夜、
意を決して夫人の化粧室へと
忍び込んだ彼が、
そこで見たものは…。

横溝正史の初期の短篇の一作です。
冒頭から重苦しい雰囲気に包まれ、
最後は驚天動地の展開で幕を閉じます。
忍び込んだ化粧室で彼は
とんでもないものを発見するのですが、
それを書いてしまうと
この作品の魅力が台無しになります。
味わいどころを指摘するだけに
とどめておきたいと思います。

【「丹夫人の化粧台」事件概要】
〔事件発生〕
昭和X年10月
〔事件関係者〕
丹夫人
…三十路であるが、若々しい未亡人。
 若い男たちと交際している。
丹博士
…夫人の夫。故人。自宅の夫人の
 化粧室で謎の死を遂げる。
高見安年
…無職の青年。27歳。
 丹夫人を巡って、初山と決闘する。
初山逸雄
…画家。26歳。
 高見との決闘を受けるが、
 自らの銃には空砲を詰め、
 半ば自殺の様な形で落命する。
下沢亮
…無職の青年。27歳。
 二人の決闘を見届ける。
〔事件の経緯〕
①丹博士が夫人の化粧室で
 謎の死を遂げる。
 警察は発狂の末の拳銃自殺と推定。
②丹夫人を巡って、
 高見と初山が猟銃で決闘をする。
 あらかじめ敗者は過失による事故死に
 見せかけるようにしてあった。
➂高見が丹夫人の化粧室に侵入し、
 命を落としそうになる。

本作品の味わいどころ①
若者二人の奇妙な決闘

物語は二人の友人・下沢を加えた三人が、
狩猟中の過失事故に見せかけて、
銃の早撃ちによる
決闘を行う場面から始まります。

ところが初山は自らの銃に空包を詰め、
決闘に名を借りた
自殺を目論んでいたことが判明、
言い残した台詞が
謎めいた光を帯びてくるのです。
そしてこの決闘の動機は丹夫人であり、
それが次の味わいどころに
つながってくるのです。

本作品の味わいどころ②
若き未亡人の怪しげな魔力

丹夫人は未亡人。
しかしまだ三十路に入ったばかりで、
若い男性を虜にする
魅力を放っているのです。
年上らしく
高見をたしなめたかと思うと、
次にはその胸にむしゃぶりついてくる。
なんとも妖しい怪しい未亡人です。

しかも、警察によって
拳銃自殺と処理された
その夫の死も謎めいています。
夫の今際の言葉は「猫が…、猫が…」。
どう考えても夫人に殺されたとしか
思えないのですが、
その動機や経緯も謎なのです。

まさしく本作品の魅力は丹夫人の
妖しさに尽きるということになります。
そうしたプロットは、
同時期の短篇では「誘蛾燈」、
後年の金田一ものでは「悪霊島」など、
横溝作品のいくつかに見られます。
そういえば「悪霊島」でも
「鵺の啼く夜に気をつけろ」という
台詞がありました。

本作品の味わいどころ➂
最後に現れる驚天動地の結末

逢瀬を重ねた夜、意を決して
夫人の化粧室へと忍び込んだ高見が、
そこで見たものは…。
あまりにも衝撃的です。
丹夫人の化粧台には突拍子もない
秘密が隠されていたのですが、
それはぜひ読んで確かめてください。

もしかしたらこのような
奇抜すぎるアイディアは、
現在のミステリ愛好家からすれば、
到底受け入れられないものと
考えられます。
でも、それが昭和初期の
横溝ミステリの神髄なのです。
本作品の発表は昭和6年。
TVもなく、特撮映画も存在せず、
娯楽の乏しい時代において、
こうした奇想天外な筋書きは、
当時のサブカルチャーの最先端を
走っていたに違いありません。
読み手は自らの心を
昭和初期に遡らせて、
その時代の空気全体を
愉しむ必要があるのです。

今日のオススメ!

いろいろな意味での
「怖いもの見たさ」ということで、
ぜひ一度ご賞味ください。
本作品は角川文庫の
「山名耕作の不思議な生活」に
収録されていましたが、
長らく絶版の憂き目に遭っていました。
それが2018年の今年、
柏書房の
「横溝正史ミステリ短篇コレクション」
第1巻に収録され、
何十年ぶりかで紙媒体で
読むことができるようになりました。
さらにはつい先日、
角川文庫から本作品を表題とした
初期短篇作品集が、
杉本一文画伯による新作装幀画
(できれば黒枠をつけてほしかった)で
刊行されもしました。
嬉しい限りです。

〔追記〕
「嬉しい限り」と書きましたが、
本書は初期作品を集めた作品集であり、
「いいとこ取り」なのです。
本書が刊行されたということは、
金田一シリーズ、
由利・三津木シリーズを除く
作品については今後
復刊されないということなのでしょう。
「恐ろしき四月馬鹿」
「山名耕作の不思議な生活」
「刺青された男」など、
ノン・シリーズ作品集こそ
復刊すべきなのです。
出版社のこうした姿勢に、
憤りを感じてしまいます。

(2018.11.24)

〔追記〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2023.11.14)

〔「丹夫人の化粧台」〕
山名耕作の不思議な生活
川越雄作の不思議な旅館
双生児
犯罪を猟る男
妖説血屋敷


白い恋人
青い外套を着た女
誘蛾燈
湖畔
髑髏鬼
恐怖の映画
丹夫人の化粧台

〔「横溝正史ミステリ短篇
  コレクション①恐ろしき四月馬鹿」〕

恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

〔横溝正史ミステリ短篇コレクション〕

〔関連記事:横溝ミステリ〕

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