「孔雀屏風」(横溝正史)

横溝の隠れた超名作

「孔雀屏風」(横溝正史)
(「真珠郎」)角川文庫

出征中の従兄弟・与一からの
手紙には奇妙な依頼が。
同封した写真の女性を
探してほしいのだという。
会ったこともないその女性の姿が、
幼い頃より
瞼に浮かんでいたのだという。
その女性は
家に伝わる屏風絵の女と
よく似ていた…。

先日取り上げた「真珠郎」に
併録されている短篇です。
私は本作品を
横溝の隠れた超名作と考えています。

味わいどころ①
語り手「私」による探偵小説

語り手である「私」が
与一の依頼である
「面影の女性」探しとともに
屏風絵の謎解きをしていきます。
「私」の調査の結果、
思いがけない事実が判明します。

「私」の家に伝わる屏風は、
六曲屏風の半分のみ。
残り半分を所有するのが
「写真の女性」だったのです。
そしてその女性の伯父である
怪人物「義眼の男」と
渡り合うことにもなります。
スリルとサスペンスに溢れた
探偵小説です。

味わいどころ②
屏風に隠された秘密の宝探し

義眼の男が屏風絵を狙うのですが、
屏風絵には百二十年前の
財宝の行方が関係していることがわかり、
宝探しの要素も加わります。
この宝探しは
終末で大どんでん返しを迎えます。

味わいどころ③
過去から現代へと繋がる縁の奇跡

そうしたミステリーとしての要素以上に、
本作品の本質は
江戸末期から現代(昭和初期)へと繋がる
恋愛ロマンス、
いや愛の伝説なのです。

屏風絵を描いた絵師は
与一の高祖父であり、
描かれた女性は
「写真の女性」の高祖母なのです。
二人は恋に落ちるも
運命はそれを許しませんでした。
完成した六曲屏風を三曲ずつ
お互いの思い出として持ち、
一方は江戸へ帰還し、
もう一方は尾道へと嫁いでいったのです。
二人の実らなかった恋が、
百二十年の時を超え、
屏風を通して現代に奇跡として蘇ります。

「此屏風再び一つに成時こそ、
 二人が一つに成時候時なれ、
 そは今生にてもよし、
 又未来にてもよかるべし。
 引裂かれたる屏風の
 再び原に復する時こそ
 御身と我との一つに成時ぞ」

屏風に隠された二人の思いが、
胸を打ちます。

それにしても改めて読み返すと、
横溝の初期作品の
素晴らしさに気付かされます。
私が横溝作品を
むさぼるように読んでいた
昭和の終末の10年間、
一連の映画をはじめとする
空前の金田一耕助ブームでしたので、
「本陣殺人事件」以前に執筆された
作品の多くに、
私は価値を感じていませんでした。
なんと愚かだったか!
今せっせと角川文庫の黒表紙の
古書(残り10数冊!)を
買い集めている次第です。

(2019.1.20)

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