「大金塊」(江戸川乱歩)

宿敵・二十面相が登場しない冒険小説

「大金塊」(江戸川乱歩)ポプラ社

小学校6年生の宮瀬不二夫君の
屋敷に泥棒が入り、
先祖から伝わる「大金塊」の
在処を示す暗号文が盗まれる。
不二夫君の父親は早速、
明智小五郎に
事件の捜査を依頼する。
そんな中、
不二夫君に変装した小林少年が
賊に拉致される…。

おなじみポプラ社少年探偵シリーズの
第4弾です。本作品は、
他の作品とは色合いが異なります。

本作品の特色①
宿敵・二十面相が登場しない

本作品のみ、
宿敵・怪人二十面相が登場しません。
賊の首領は「美しい30代の女性」であり、
部下たちにもその正体を明かさず、
常に黒覆面を被っているという
不思議な設定です。
これなら怪人二十面相でも
いいようなものですが…。

本作品の特色②
拉致されても待遇は悪くない

前作「妖怪博士」では、
拉致された少年探偵団員の少年たちは、
二十面相に徹底的に
いたぶられましたが、
本作品の盗賊たちはお手柔らかです。
一応、藁布団があるだけの
鉄格子のはまった小部屋に
監禁されるのですが、
3度の食事はしっかり出されるし、
見張りの手下も
なかなかフレンドリーです。

本作品の特色③
紙切れ一枚しか盗まない

この盗賊団は、結局のところ
暗号文の書かれた紙切れ一枚しか
盗んでいません。
宮瀬家の金目のものには
一切手をつけていないのです。
まあ、その暗号文の価値からすれば、
他の金品の価値など
たかが知れているのですが。

本作品の特色④
探偵小説というより冒険小説

後半部は一気に
宝島への冒険に突入します。
明智・小林・宮瀬父子の4人は
意気揚々無人島の洞窟の中へ
入り込むのです。
案の定、4人は賊の罠にかかり、
洞窟内をさまよいます。
特に少年2人は大人とはぐれた上に
満ち潮でおぼれ死にしそうになり、
流れ着いた先に
目指す「大金塊」があったという
予定調和的なハッピーエンド。
賊との武力衝突もなく、
宝探しはめでたく終わります。

こうした特色の原因は時代にあります。
本作品が書かれたのは昭和15年、
時局が厳しくなり、
犯罪を扱った小説が
書きにくくなっていたからです。
「怪人」などもってのほか
だったのでしょう。
宮瀬父が、金塊すべてを大蔵省に納め、
払い下げ金も一部は陸海空軍に寄贈し、
残りも福祉施設に寄付したことが
付け加えられています。
そうした時代に書かれた作品なのです。

以後、日本も探偵小説も
暗黒の時代に突入します。
シリーズ第5弾で
二十面相が復活するのは
本作発表の実に10年後となるのです。

(2019.5.11)

PexelsによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「大金塊」(江戸川乱歩)

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