「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎)③

漫画化で距離が縮まるのは喜ばしいこと

「君たちはどう生きるか」
(羽賀翔一)マガジンハウス

話題の漫画が
勤務校の図書館に入ったので、
さっそく借りて読みました。
面白かったです。
原作のエッセンスが
しっかりと生かされていて、
漫画家の技量の高さがうかがえます。

まずは導入の巧みさ。
原作をそのまま漫画にすれば、
相当まどろっこしい内容に
なっていたはずです。
ところが、
クライマックスの一部を冒頭に配置し、
「なぜ主人公の少年は
苦しんでいるのか」という問いを
読み手に与えながら
物語を始める絶妙の「つかみ」です。
原作の登場人物紹介は後回しにして、
「つかみ」の段階で
読み手を物語に引き込む
漫画ならではの手法です。

そして展開の速さ。
原作の筋書きを取捨選択し、
そのエッセンスを抽出し、
原作者の目指したものを
損なうことなく、
流れるように読み進められる
ストーリー展開。
80年前の原作を
漫画化したとは思えないような、
見事な流れです。

加えて登場人物のキャラクター設定。
漫画はキャラ立ちが重要な要素です。
途上人物を絞り込み、
その分、キャラクター一人一人を
色濃く登場させる。
これも漫画の基本を
しっかりと踏まえています。

特に本作品の最重要人物
「おじさん」の印象が、
原作とは一味違います。
主人公コペル君に寄り添い、
ともに悩み、
ともに成長していこうという設定は、
この物語に新しい息吹を
もたらしたといえるでしょう。
すべてを悟りきった人間ではなく、
ちょっと頼りないところを見せながらも
肝心な部分では
毅然とした態度で振る舞う大人。
上から目線で教え諭すのではなく
一緒になって考えようとする姿勢。
これは漫画のキャラクター設定では
大切なことです。

さらにすべての漫画化にこだわらずに
文章表現を残したこと。
原作の最も重要な部分は
「おじさんのノート」です。
そこは無理に漫画にせず、
文章をそのまま掲載する
異例の形をとっています。
漫画家も出版社も
的確な判断をしたと思います。
「おじさんのノート」はやはり
文章でなくてはならないと思います。

かつて前任校で
読書指導を行ったとき、
原作の岩波文庫版は
活字も小さく読みにくく、
子どもたちにはすこぶる不評でした。
こうした漫画化で、
「君たちはどう生きるか」と
子どもたちの距離が縮まるのは
喜ばしいことだと思います。

ただ、読み終えた後、
これでいいのかなと、
いろいろ考えてしまったのも事実です。
それについては
次回また書きたいと思います。

(2019.6.16)

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