「ニライカナイの空で」(上野哲也)①

主人公の「もまれ度」の大きな成長物語

「ニライカナイの空で」
(上野哲也)講談社文庫

12歳の新一は、父の破産により、
東京からひとり
九州の炭鉱町に辿り着き、
父の戦友という
野上源一郎の世話になる。
野上は酒飲みの荒くれ者だが、
叔母さんは優しく迎えてくれる。
新一はやがて野上の息子の竹雄、
そして町の同級生たちと
たくましく暮らし始める…。

一言で言えば、少年の成長物語です。
東京生まれの少年が、
田舎の少年たちにもまれながら
成長する筋書きは
珍しいものではありません。
これまで取り上げた中では、
三浦哲郎「ユタと不思議な仲間たち」、
山中恒「ぼくがぼくであること」
などがあてはまるでしょうか。

では、本作品の特徴は何か?
それは主人公の
「もまれ度」の大きさだと思うのです。
巡り会う人間や冒険、事件によって、
新一は強くもまれていくのです。

まず、野上源一郎。
いかにも炭鉱夫といった、
酒飲みの荒くれ者で、
新一に容赦はしません。
返事や行動が遅いとすぐ殴る。
新一の持ってきた金を
すべて巻き上げる。
着いた初日にいきなり新一の頭を
バリカンで丸坊主にする。
現代であれば児童虐待で
訴えられるところです。

次に竹雄。
やはり源一郎の子どもであり、
性格は同じ。
ある目的のために
新聞配達をして自分で金を稼ぐ。
そのために大人ともやり合う。
かつて警察にも捕まっている。
12歳までの経験値が異様に高い、
たくましすぎる小学生です。
もちろん新一にまったく遠慮しません。

その竹雄の目的とは、
ヨット製作と無人島への冒険。
廃船を使ってヨットを設計・製作する
竹雄に、新一も加わります。
そして2人だけで無人島へ出帆。
無人島でのサバイバル生活が
始まるかと思いきや、
ソ連の密入国スパイと間違えられ、
警察に身柄を拘束されてしまいます。

さらには秋の炭鉱事故。
源一郎の安否が気がかりな新一は、
友人の助けを借りながらも
現場に忍び込みます。
そして12歳でありながら、
新一は大人の世界を
十分に見ていくのです。

新一の状況は
悲惨であるにもかかわらず、
悲壮感は一切ありません。
一陣の風が吹き抜けるような
爽快感をもって
読み終えることができました。

やはり成長物語はいいものです。
とうの昔に成長を終えてしまった
オジさんにとっては、
主人公が羨ましい限りです。
中学校2・3年生に薦めたい一冊です。

(2019.8.11)

セカイの歩き方さんによる写真ACからの写真

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