「夫婦善哉」(織田作之助)

惚れた蝶子の気持ちが痛いほど伝わってくる

「夫婦善哉」(織田作之助)新潮文庫

芸者あがりの蝶子は
化粧品卸問屋の息子柳吉と
駆け落ちする。柳吉が蝶子に
お金をつぎ込んだのがばれて
勘当されたからだ。
柳吉はいろいろ商売を替えるが
長続きせず、放蕩を繰り返す。
しかし蝶子は柳吉に
どこまでもついて行く…。

もしかしたら、
本作品を読み終えた後に
憤慨する方もいるのではないかと
思います。
なんでそこまでして
一緒にいる必要があるんだ、と。

柳吉は根っからの甲斐性なしです。
仕事はすぐ飽きる。深酒はする。
駆け落ちしても
妻子のことが忘れられない。
蝶子が必死で貯めたお金を
一晩で使い果たす。
もちろん何度も浮気する。
自分よりも一回り以上歳をとっていて、
そのくせ自分を
「おばはん」呼ばわりする。
そんな男、
さっさと捨ててしまえばいいだろう。
そう言いたくなるのは当然です。

でも、だからこそ、
柳吉に惚れた蝶子の気持ちが
痛いほど伝わってくるのです。
女が男に惚れるというのは
こういうことなのではないでしょうか。
私は男なのでよくわかりませんが。

柳吉にしても、
遊びまくりたいのであれば、
蝶子と別れて
父親に詫びを入れればすむ話なのです。
でも結局、柳吉は帰ってくるのです。
「もう思う存分
折檻しなければ気がすまぬと、
締めつけ締めつけ、打つ、撲る」
蝶子のもとへと帰ってくるのです。

もし私が柳吉のような
振る舞いをするならば、
すぐさま妻に家を
追い出されてしまうでしょう。
何せマスオさん状態の我が身ですから。
そう考えると、
柳吉は典型的なダメ男のように見えて、
実は女の心をとらえる
何かがあるのでしょう。

惚れて、くっついて、
喧嘩して、離れて、
でもまた一緒になって、
それを繰り返したあとに、
二人がぜんざい屋で
ぜんざいを啜る場面で物語は終わります。
一人に二杯ずつ運ばれる、
故に「夫婦善哉」。
昭和初期の大阪を舞台にした
人情味とおかしみと
ほんの少し悲しみの混じった
夫婦愛の物語です。

これぞ日本文学の傑作だと思います。
子供では絶対に味わうことのできない、
大人の文学です。
日本にはこのような素晴らしい作品が、
まだまだたくさんあるのです。
今の子どもたちが大人になったとき、
このような作品が
まだ残っているように、
私たちがしっかりと
読み継いでいく必要があるでしょう。

(2019.8.19)

きぬさらさんによる写真ACからの写真

【青空文庫】
「夫婦善哉」(織田作之助)

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