「わたしのせいじゃない」(レイフ・クリスチャンソン)

心に突き刺さる作者の指摘

「わたしのせいじゃない」
(レイフ・クリスチャンソン/
 二文字理明訳/
 ディック・ステンベリ絵)
 岩崎書店

「わたしのせいじゃない」岩崎書店

学校の教室で
一人の男の子が泣いている。
14人の級友たちは
その状況に対して
それぞれ答える。
「わたしのせいじゃないわ」
「ぼくはしらない」
「はじめたのはわたしじゃない」
「その子がかわってるんだ」
「わたしにはかんけいないわ」…。

14人の子どもたちは、
誰一人として自分の非を認めません。
無関係を主張する
「わたしのせいじゃないわ」。
無関心の表れ
「ぼくはしらない」。
責任を回避する
「なにもできなかった」
「ひとりではとめられなかった」。
自分の非を矮小化する
「でも ほんのすこしだけだよ」
「はじめたのはわたしじゃない」。
被害者に責任転嫁する
「その子がかわってるんだ」。
同調圧力を強いる
「考えることがちがうんだ」。
被害者をさらに責め立てる
「その子はひとりぼっちで立っている」
「泣いている男の子なんてさいていよ」
「よわむしなのよ」
「さけべばいいのに」。
全くの傍観者
「ほとんどわすれてたわ」。

昨今のいじめの構造を明らかにし、
いじめのある集団で
何が問題なのかをあぶり出しています。
中学校2年生の
道徳の教科書に採用されているのも、
そうした「傍観者の暴力」を
子どもたちに気づかせたいという
思いからでしょう。

今日のオススメ!

一見、小中学生の子どもたちへの
いじめ対策的な作品のように
見えますが、本書の肝は、
それに続く6枚の写真です。
「原爆のキノコ雲」
「母親の死体の傍らで泣く子ども」
「撃たれた少女を抱きかかえる兵士」
「重油まみれの海鳥」
「ゴミの埋め立て地を舞い飛ぶカモメ」
「マシンガンを得意そうに持つ少年」。

その写真の扉には
「わたしのせいじゃない?」の文字。
「これらの写真の状況は
本当にわたしたちのせいじゃ
ないのですか?」という作者の指摘が、
私たちの心に
突き刺さってくるかのようです。

本書は、本当は大人向けの
絵本なのではないかと感じます。
子どもたちの間で起きている
「いじめ」は、
私たち大人社会でも存在しているし、
さらには国際社会でも
頻発していることなのです。
「戦争・内戦」「兵器開発」
「環境破壊・環境汚染」
「貧困」「差別・偏見」、
こうしたものはみな強者が弱者を
「いじめ」ている一つの側面として
現れているのではないでしょうか。

created by Rinker
¥1,210 (2024/05/18 16:24:48時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

そう考えると、
子どもたちの「いじめ」は、
子どもたちの社会以前に、
大人たちの社会が変わらない限り
なくならないのではないかと
思うのです。

子どもから大人まで、
すべての方々にお薦めです。
読み手の年齢によって、
何を重ね合わせるべきか
考えさせられる、
深い深い内容の一冊です。

※初めて読みましたが、
 日本語訳の出版が1996年であり、
 かれこれ四半世紀前から
 存在していた絵本でした。
 私が購入したのは
 2017年に再刊された大型本。
 大きい分だけ、より心に
 迫り来るものがありました。

(2020.9.21)

OhmydearlifeによるPixabayからの画像

【関連記事:素敵な絵本】

【絵本のおともに:Chocolate】

created by Rinker
チロルチョコ
¥1,380 (2024/05/18 16:24:50時点 Amazon調べ-詳細)

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥1,650 (2024/05/18 14:17:53時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥1,572 (2024/05/18 16:24:51時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA