南洋特有の幻想性が強調された作品群
「南島譚」(中島敦)
(「中島敦全集2」)ちくま文庫

昔、パラオのある島に
一人の哀れな男がいた。
男は島で一番貧しく、
権力者のもとで
奴隷のように使われていた。
しかもその上、
病に苦しんでいた。
苦労を少しでも
軽くしてほしいと、
男は島の悪神に祈った。
するとその夜から…。
「幸福」
以前取り上げた中島敦の3作品、
実は「南島譚」という
一つの作品集なのです。
すべて南方パラオが舞台の、
日本人には理解が難しい
南洋の風習や民族性を
テーマとしたものです。
中島敦といえば、私は
新潮文庫版の「李陵・山月記」の
4編だけしか知らなかったものですから、
はじめに「夫婦」を
別の作品集で読んだときは驚きました。
中島は中国だけに素材を求めていた
わけではなかったのです。
コシサンの妻エビルは
すこぶる多情で、部落の男と
いつも浮き名を流している。
その一方で彼女は
大の嫉妬家でもあった。
夫の目線の先にある女に
戦いを挑み、勝利する。
ある日コシサンは
美しい女性リメイと出会い、
恋仲となる…。
「夫婦」
1941年に、
パラオに教科書編纂係として赴任した
中島の目には、おそらく南方のすべてが
奇怪なものに映ったのではないかと
推察されます。
現代と違い、
情報の乏しかった時代でしょうから。
だからこそ、このような
魅力的な作品群が
完成したのではないでしょうか。
民俗調査のために
パラオを訪れている「私」は、
現地の老人マルクープを使い、
資料の収集にあたっている。
老人の仕事はやがて
いい加減なものとなり、
「私」は老人を叱り付ける。
老人が帰った後、机上にあった
懐中時計がなくなる…。
「雞」
「幸福」では、
現地人の夢に対する深い傾倒と
迷信を信じる精神性とを
寓話として描いています。
「夫婦」では、
妻と愛人の決闘として、
最後に相手の衣服をむしり取って
勝敗が決する
ヘルリスという習慣を取り上げ、
南洋民族の男女観、夫婦観について
面白おかしく表現しています。
「雞」では、
日本人には到底理解不能の
パラオ人の生活感情、
そして倫理観について
私小説風に描出しています。
そしてそれらは、
舞台を日本に置き換えたりせず、
南の島のせまい特殊な環境下で
物語として結実させた方が
より効果的と
中島は判断したのでしょう。
南洋特有の幻想性が強調された
作品に仕上がっています。
わずか33歳で病没した中島敦。
彼にもう少しの
時間が与えられていたら、
一体どんな傑作を
書き上げていたのだろうかと
思わずにはいられません。
まずはこの3篇から、
中島敦を捉え直してみませんか。
(2021.9.30)

【青空文庫】
「幸福」(中島敦)
「夫婦」(中島敦)
「雞」(中島敦)
【今日のさらにお薦め3作品】
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