「卍」(谷崎潤一郎)②

書店ではぜひ巻末までチェックしましょう

「卍」(谷崎潤一郎)中公文庫

「卍」(谷崎潤一郎)新潮文庫

日本を代表する作家・谷崎潤一郎
文庫本として各出版社から
複数点出版されています。
谷崎作品を最も多く文庫化しているのは
中公文庫です。
今年に入ってからも
「少将滋幹の母 他三篇」や
「台所太平記」など、
改版新仕様が出版されています。
次いで新潮文庫
こちらは近年、かつての統一デザインが、
より鮮やかで明るい色合い、
かつ洗練された新デザインへと
変更されました。
しかも裏表紙まで
美しくリニューアルし、
店頭で見かけると、
思わず手に取ってみたくなるような
上品な装幀となっています。
実は先日取り上げた「卍」だけでなく、
私はいくつかの谷崎作品について、
中公文庫版と新潮文庫版の
両方を所有しています。

同じ作品を、複数の出版社の文庫本で
買う必要があるのか?
仮に海外作品であれば、
訳者が異なることによって
作品自体の印象が変わるため、
読み比べの価値はあると思います。
では日本人作家の作品の場合はどうか?
テキストはまったく同一です
(仮名遣い等、表記上の違いはあるが)。
でも、違いがあります。
本文テキスト以外の「解説その他」です。

新潮文庫版は文芸評論家・中村光夫の
解説文を掲載しています。
内容はもちろん的を射たものであり、
十分な解説として機能しています。
しかし改版したにもかかわらず、
初出の1951年当時のものが
そのままなのです。
いささか古すぎます。
現代の視点からの解説を
付け加えるくらいの配慮があっても
いいのではと、つい思ってしまいます
(それでも買ってしまったのは
表紙の美しさ!)。

中公文庫版も、2006年改版ですが、
初版が1985年ですので、
まださほど古びてはいません。
しかもこの作品の成立に関わる説明が
丁寧に為されていて、
作品理解にきわめて役立つ内容と
なっているのです。
さらには「座談会 卍のコンビ
女の秘密を語る」として、
谷崎と若尾文子・岸田今日子
(映画「卍」1964年の出演女優)の
三人の座談会が収録されていて、
谷崎の作品に対する考え方を
窺い知ることができるように
なっています。

こうした「解説」が、作品を深く知る上で
貴重な資料となることが多いのです。
かつては角川文庫や旺文社文庫など、
巻末資料の充実した文庫本が
数多く存在していたのですが、
近年はさっぱりです。
ピントのずれた解説や意味のない解説も
目立ちます(その経緯は
「文庫解説ワンダーランド」
(齋藤美奈子著)岩波新書を読むと
よくわかります)。

複数の出版社から出されている
名作文学作品の文庫本は、
巻末に注目すると、
面白い発見があります。
書店ではぜひ巻末まで
チェックしましょう。

(2021.11.2)

【今日のさらにお薦め3作品】
①ショートショートはいかが
 「恐怖の正体」「博士の目」
 (山川方夫)

②素敵な児童文学
 「十一月の扉」(高楼方子)

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 「スポーツを仕事にする!」(生島淳)

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