「神州纐纈城」(国枝史郎)②

書かれざるその決着に向けられた期待の大きさ

「神州纐纈城」(国枝史郎)
 講談社大衆文学館文庫

造顔師・月子のもとに現れた
源之丞・園女は、
ある男の追跡から逃れるために
顔を醜く変えてくれと依頼する。
二人に術を施す月子は、
数奇な運命を負う男女の
物語を語る。
それは源之丞・園女の関係
そのものであり、
二人は恐怖する…。

前回、未完成の本作品を取り上げ、
「未完成であるのに、
なぜ面白く読めるのか?」と
論じました。そして
主人公・庄三郎に関わる部分について、
「主人公・庄三郎はどう復活する!?」
「纐纈城と纐纈は何をもたらす!?」
「富士教団は再生するのか!?」
「魔神・纐纈城主・庄八郎は
伐たれるのか!?」
「庄八郎と主水の
決着やいかに!?」という五点から、
その後の筋書きの
期待値の大きさについて書きました。
実は本作品、主人公の周囲だけでなく、
さらにその周辺の、
いわゆるサブキャラクターたちにも、
興味津々の筋書きが
与えられているのです。

【主要登場人物】
土屋庄三郎昌春
…武田家家臣の一人。紅布を手に
 父親を探しに富士山麓へ向かう。
土屋庄八郎昌猛
…庄三郎の父。かつては武田信玄の
 最も信頼する家臣だった。
 纐纈城主となる。
土屋主水昌季
…庄八郎の弟で庄三郎の叔父。
 富士教団を組織し、
 光明優婆塞を名乗る。

…庄三郎の母。
 主水と相思相愛であったが、
 庄八郎と結婚せざるを得なくなった。
高坂甚太郎
…主君信玄の命で、庄三郎を狙う。
 鳥刺しに変装。
三合目陶器師
…富士の裾野に住む人斬り。
 本名・北条内記。
月子
…富士の裾野に住む造顔師。
 訳ありの人間の面相を変える。
伴源之丞
…元北条家家臣。陶器師から逃亡。
園女
…北条内記の元妻。
 伴源之丞と駈け落ち、逃亡。
直江蔵人
…富士の裾野に隠遁している薬師。
塚原卜伝
…天下に知られた剣聖。

詰め込まれているストーリー⑥
源之丞と園女は
陶器師に斬られるのか!?

終盤に登場した源之丞と園女の二人。
追っ手・陶器師から逃れるために
美男美女でありながらも
顔を醜く整形するのですが、
運命は過酷であり、
整形し終わったその直後に
陶器師と遭遇するという不運。
そして陶器師は二人に気づきます。
なぜ気づいたか?
それは「後ろ姿がそっくり」。では
陶器師は見事に復讐を果たすのか?
それとも二人は幸せをつかむのか?
両者とも善人というよりは
悪人なのですが、
筋書きはどう転ぶのか?
期待はなおも膨らみます。

詰め込まれているストーリー⑦
直江蔵人の編み出した「五臓丸」は!?

生き血に染めた「纐纈」とともに、
呪いを感じさせるアイテムとして
登場した「五臓丸」。
なんと人間の五臓から造り出したという
万病に激しく効く妙薬。
剣聖・卜伝がそれを突き止め、
製造者・蔵人を切り捨てる覚悟で
乗り出すのですが、
逆に蔵人に説得され、
行動を共にする始末。
「五臓丸」は一体
どんな役割を果たすのか?
二人の行動に正義はあるのか?
期待はさらに膨らみます。

詰め込まれているストーリー⑧
甚太郎と月子の関係はどう進展する!?

色気の薄い本作品において、
少しだけ色気を発揮するのが月子です。
それも甚太郎と出会ってから。
しかし二人は関係を持つに至りません。
月子が20代後半の
女盛りであるのに対して、
甚太郎はまだ幼さの残る14歳
(おそらく満年齢であれば13歳か)。
しかし出会ってしまい、
一つ屋根で暮らしてしまい、
その後の関係はどうなるのか、
やはり気になります。
しかも甚太郎自身が天真爛漫すぎて
犯罪者気質が
見え隠れしている状態です。
二人の邂逅は善にも悪にも転がりそうな
不思議な予感が漂います。
期待は一層膨らみます。

詰め込まれているストーリー⑨
甚太郎と庄三郎は巡り会うのか!?

そもそも脱藩した庄三郎を
伐つ使命を帯びた甚太郎は、
結局一度も接触することなく
(ニアミスはあり)、
幕切れを迎えるのですが、
巡り会っていたら
どんな決着となるのか?
両者は激突するのか?
それとも和解するのか?
期待は大きく膨らみます。

詰め込まれているストーリー⑩
武田と上杉の戦いにどう影響する!?

そして気になるのが
武田と上杉の戦いです。
領内に纐纈城を要している武田と
五臓丸を手にした上杉。
筋書が進めば「纐纈」VS「五臓丸」という
魔力アイテムの衝突が予想されます。
史実通りの結果となるのか、
それともここまでが十分に
SFチックでしたので、
時空を超えた戦渦となるのか?
期待は最大限に膨らみます。

どれか一つを取り上げても
十分なストーリーを作れそうな
素材ばかりが詰め込まれているのです。
だから未完であっても
抜群の面白さなのです。
前回も書きましたが、
書かれざるその決着に向けられた
期待の大きさこそが、
本作品の面白さなのです。

作者・国枝史郎
1887年生まれの作家です。
その前年には
谷崎潤一郎武者小路実篤が生を受け、
その翌年には菊池寛里見弴
誕生しています。
何かとお堅い明治の文壇にあって、
このような奇想天外な物語を
生み出していた国枝史郎。
その多くが絶版状態にあるのは
非常に残念なことです。
どこぞの出版社から
全集が再刊されないものかと、
期待はなおもさらに一層大きく
最大限に膨らみます。

(2022.5.20)

Kerry BarbourによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「神州纐纈城」(国枝史郎)

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