「図解 天気予報入門」(古川武彦・大木勇人)

天気予報はこのようにしてつくられていた!

「図解 天気予報入門」
(古川武彦・大木勇人)
 講談社ブルーバックス

天気図を用いて予報官が行う
天気予報の手法は
過去のものとなりました。
「数値予想」とよばれる
コンピュータによる天気予報が
主流になっている現在、
本書はその原理を
明らかにする目標を立てました。
専門書では微分や積分の数式…。

私が中学生の頃は、
「天気予報」というのは
くじ引きと同じレベルで
「あたらないもの」の
代名詞だったような記憶があります。
最近ではそのようなことはなく、
かなり頼りになる存在となりました。
現在の予報精度はどのくらいかと
調べてみると、
なんと的中率は年々向上し、
90%に近づいているのでした
(気象庁HP:降水の有無・
 東京地方・夕方発表の明日予報)。
しかしどのようにして
天気用法を作成しているのか?
「多分コンピュータだろうな」ぐらいは
感覚的に理解できていましたが、
詳しいことは一切分かりませんでした
(中学校理科教師なのに!)。
そこで手に取ったのが本書です。

かなり複雑な仕組みでした。
これを正確に理解するには
気象学だけでなく、
物理学や微分・積分などの数学等を
身に付ける必要がありそうですが、
それらがなくとも
「概略は概ね理解できる」ところまで、
筆者が説明を掘り下げてくれています。

【本書の章立て一覧】
前編・人による予報の時代
 ─観測、気象の理解から予報へ
第1章 温暖化で強靱化する「台風」、
    多発する「線状降水帯」
第2章 気象台も気象レーダーも
    ないころの気象災害
第3章 現在の大気を知る
    ─さまざまな気象観測
第4章 天気図と人による天気予報
後編・コンピュータによる予報の時代へ
 ─数値予報とはなにか
第5章 大気をシミュレートする
    数値予報
第6章 数値予報を翻訳するガイダンス
第7章 天気予報のこれから
※詳しくはこちらから(講談社HP)

本書の「わかりやすさ」①
その名の通り、図解が豊富

「図解」という表題は
伊達ではありません。
理解を助けるための
視覚的資料が豊富であり、
それらを眺めているだけでも
楽しくなります。「気象」は
中学校2年生の理科で学習しますが、
その知識のかけらがあれば、
前半部分は十分に理解できます。
「風が吹く理由」だけでも
説得力のある説明がなされています。
「気柱」というモデルを図示して、
空気が移動する原理を
視覚的に解説しています。
この部分は、教科書では
「風は気圧の高いところから
低いところへ吹く」と習うのですが、
「高いところから低いところへ」という
水の流れをイメージさせるだけで、
本質的な部分に中学校の授業が
全く踏み込んでいなかったことに
気づかされます。

本書の「わかりやすさ」②
気になる話題から切り込む

天気予報という
実は難しい仕組みに言及する前に、
近年私たちの生活を脅かしている
「台風」「線状降水帯」といった、
最も興味関心の高い部分から
切り込んでいるのです。
一般の方でも十分に入り込んでいける
構成となっています。

本書の「わかりやすさ」③
概略を丁寧に、初心者仕様

そして現在の天気予報を扱う前に、
前半部で「人による予報の時代」を
取り上げています。
内容は決して
天気予報の歴史を語るのではなく、
現在にもつながる
気象観測のされ方について
述べられているのです。
それを踏まえて、後半部でいよいよ
「コンピュータによる予報の時代へ」が
展開されます。それによって
複雑な仕組みの天気予報の、
何が最新の技術に置き換えられたか、
理解できるようになっているのです。
また、理解に必要になる
数式を取り上げながら、
それを厳密に説明するのではなく、
それが何を意味し、
何に役立っているかを
詳細に記しています。
「完全な理解」ではなく、
「概略の大まかな理解」を目指す姿勢は、
初心者にとってありがたいことです。

私たちの国は、地震・火山とともに
台風をはじめとする
気象災害に見舞われる、
世界にも希な地勢を有しています。
物理・化学・生物・地学の、
自然科学4分野の中で、
日本国民が最も深く履修すべきは
「地学」なのではないかと思っています。
中学生にはやや難しいのですが、
高校生、そして
大人のあなたの学び直しに、
ぜひお薦めの一冊です。

〔天気や気象について学べる本〕
親しみやすい本といえば、これです。
「雲を愛する技術」(荒木健太郎)
気象そのものより「雲」に着目し、
自然事象をより面白く説明しています。

中学生ならこの一冊がお薦めです。
「天気ハカセになろう」(木村龍治)
授業で学習する内容が
分かりやすく説明されています。

近年目立つ気象災害。
その備えとなる一冊です。
「にげましょう 特別版」(河田惠昭)
避難の大切さが
身に染みてよく解ります。

天気を題材にした小説なら
当然これでしょう。
「小説 天気の子」(新海誠)
映画とともにお薦めです。

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今日のオススメ!

「天気の子」以前に発表されていた
「気象小説」には、次の2冊があります。
「雲の王」(川端裕人)
「天空の約束」(川端裕人)

こちらも素敵な作品です。

(2022.8.23)

Bogdan RaduによるPixabayからの画像

【家庭用気象観測機器】
※今はこのようなものがあるのでした

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