「ABC殺人事件」(クリスティ)

読み手はクリスティの掌の上で心地よく踊らされる

「ABC殺人事件」
(クリスティ/堀内静子訳)
 ハヤカワ文庫

「ABC殺人事件」ハヤカワ文庫

ポアロの元に届いた、
ABCと署名された犯罪予告状。
その予告通り、Aで始まる
アンドーヴァーの町で
イニシャルAの老女アッシャーの
死体が発見される。
傍らに置かれた「ABC鉄道案内」は
何を意味するのか。
第二の予告状にはBの…。

アガサ・クリスティ
代表作であるとともに、
世界のミステリ作品の
傑作中の傑作でもある本作品を、
ようやく読みました。
その手法(いわゆる「ABCパターン」)は
日本の作家も使用しているため、
大まかな展開は予想できましたが、
最終頁まであとわずかという段階まで
真犯人を匂わせないあたりは
さすがクリスティです。
興奮して全400頁を
あっという間に読んでしまいました。

【主要登場人物】
エルキュール・ポアロ
…私立探偵。
アーサー・ヘイスティングズ
…ポアロの友人。大尉。
 本作品の記録者。
アリス・アッシャー(Alice Ascher)
…最初の犠牲者。
 アンドーヴァー在住の老女。
フランツ・アッシャー
…アリスの夫。
 たびたびアリスに金をせびっていた。
メアリ・ドローワー
…アリスの姪。
エリザベス・バーナード
(Elizabeth Barnard)

…二番目の犠牲者。
 ベクスヒル在住の娘。
 異性関係が少々だらしない。
ミーガン・バーナード
…ベティの姉。
ドナルド・フレイザー
…エリザベスの恋人。
 異性関係で彼女と口論。
カーマイケル・クラーク卿
(Sir Carmichael Clarke)

…三番目の犠牲者。
 チャーストン在住の富豪。
フランクリン・クラーク
…カーマイケル卿の弟。
シャーロット・クラーク
…カーマイケル卿の妻。
ソーラ・グレイ
…カーマイケル卿の秘書。
ジョージ・アールスフィールド
…四番目の犠牲者。
アレグザンダー・ボナパート・カスト
(Alexander Bonaparte Cust)

…行商人。
ジェームス・ジャップ…主任警部。

本作品の味わいどころ①
「ABC」の意味するものの多さ

イニシャルのABCの順に
殺害されるという設定は有名であり、
読む以前から知っていました。
しかし「ABC」はそれだけでなく
殺人が行われる地名の順でもあります。
そして犯人が
予告状に記した署名であり、
名刺代わりに犯行現場に遺したのも
「ABC鉄道案内」、
さらには最後に浮かび上がる容疑者
アレグザンダー・ボナパート・カスト
(Alexander Bonaparte Cust)の
イニシャルでもあるという
念の入りようです。
それはまるでいくつもの装飾を施された
螺鈿細工のようにも感じられます。
読み手は否応なしに
クリスティの作品世界の中に
取り込まれていくのです。

本作品の味わいどころ②
犯人を絞らせない巧妙な人物配置

暗躍する殺人狂。
その恐怖を醸し出しながら
物語は進行します。
その一方で、
ABCの順に起きた殺人事件、
そのどれもに動機を持った関係者が
潜ませてあるのです。
従って読み手は、
この関係者一同の誰かが
真犯人ではないかと
疑ってかかるのですが、
その関係者一同は同盟を組み、
犯人の捜索を開始します。
そして第4の事件後に自首する犯人。
これで完結かと思った直後、
ラスト数頁でどんでん返しが
待ち構えているという仕組みです。
常に読み手の想像の一つ上をいく
展開の巧妙さには
舌をまかざるを得ません。
読み手は気づかぬうちに
クリスティの仕掛けた罠へ
自らはまっていくのです。

本作品の味わいどころ③
周到に鏤められた伏線

冒頭のマシュー・プリチャード氏の
推薦文にある
「ひねりや偽の手がかり、
隠れた動機などが
ほぼ毎ページに見られる」というのは
決して誇張ではありません。
いくつも現れるひねりに
読み手は唸らされ、
いくつもの偽の手がかりに
読み手は翻弄され、
いくつもの隠れた動機に
読み手は惑わされることになります。
読み手はクリスティの掌の上で
心地よく踊らされることになるのです。

私にはかつてミステリを
軽蔑していた時期がありました。
間違いでした。
ミステリも素敵です。
本の海にはやはり広く深く
魅力ある世界が存在しています。
限られた人生です。
偏ることなく一冊でも多くの本と
素敵な出会いを果たしていきたいと
思います。

(2023.1.2)

Robert KarkowskiによるPixabayからの画像

〔追伸〕
明けましておめでとうございます。
新年早々「殺人事件」でもあるまいと
思ったのですが、
年末年始こそミステリです。
海外ミステリには
まだまだ名作が溢れています。
十分に愉しみたいと思います。

(2023.1.2)

Happy New Year 2023

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