「The Affair of Two Watches」(谷崎潤一郎)

味わいどころは三つの「暴露」

「The Affair of Two Watches」
(谷崎潤一郎)
(「潤一郎ラビリンスⅢ」)中公文庫

「潤一郎ラビリンスⅢ」中公文庫

「つまらんさ!
そんな事をしたって!
其れよりは多勢引っ張って行って
ウント牛肉でも食わして
紙幣ビラを切って見せるんだ。
驚くだろうなア皆が。」
何しろ大枚百圓と云う
金の柱を中央に、
三人が三方からと見こう見して、
さすって…。

谷崎潤一郎といえば、
「春琴抄」「刺青」など、
道徳や常識を超越し、
あくまでも美を追求した文学である
耽美派として有名です。
しかし自らの日常を切り取った
私小説風の作品も
いくつか編み上げています。
本作品はその一つです。
味わいどころは三つの「暴露」です。

〔主要登場人物〕
「私」(山崎禄造)

…二十三四の大学生。
 親元で自堕落な生活を送っている。
 授業料は納めている。

…「私」と同じ大学の学生。
 無謀な金策を計画する。
原田
…「私」と同じ大学の学生。
 「私」と杉の時計を質入れして
 金をつくる。

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本作品の味わいどころ①
滑稽な金銭感覚の暴露

豪遊の計画を立てている三人ですが、
実は一円も持っていないのです。
授業料の三十円をすでに使い込み、
滞納しているくらいですから。
ではなぜこのような
豪遊計画が出てくるのか?
百五十円の全集書籍を
手付金五円で受け取り、
それをすべて売りさばいて
百円の金をつくる。
二人の授業料六十円を納めて
残った四十円で豪遊、
書籍の残金は三人で均等割して
二十ヶ月で返済すれば
微々たる支払いで済む、という
計算です。
谷崎潤一郎の
自伝的短篇作品なのですが、
なんともはや脳天気としか
いいようがありません。

本作品の味わいどころ②
堕落した大学生活の暴露

昼近くまで寝ている大学生は
決して珍しいものではありません。
しかし本作品の「私」の場合、
それを論理的に
両親の責任に帰しているところに
面白さがあります。
怒鳴り声で起床を促す親に対して、
「子供と違って二十三四にもなると
 相応に威厳とか格式とか云うものを
 保ちたがるので、
 こうして見ればオイソレと
 手軽に起きる事が出来ない。
 まさか此の辺の道理の解らぬ
 親父でもなかろうから、
 私は時々親父の真意の存する所を
 疑って、此れは屹度、
 もっと寝て居るがよいと云う
 謎に違いないと解釈する」
。そして
「親切が仇となって
 私は早起が出来ない」
「私も残念で堪らぬ」
と続けます。
さすが文学者です。

本作品の味わいどころ③
卑小な小市民的性格の暴露

で、豪遊できたかというと、
手付金五円をつくるために「私」と原田の
時計を質入れしたのですが、
できた金子は三円のみ。
残り二円をかき集めるわけでもなし、
結局その三円で
牛鍋を囲んでしまうのです。
いかにも小市民的行動パターンです。

このように、自らの恥ずかしい一面
(谷崎自身は恥ずかしいと
思っていないのでしょう)を、
惜しげもなく開陳してしまうところが
いかにも谷崎らしいところです。
しかも、もっともらしく
暴露していながら、
どこまでが本音でどこからが創作なのか
判然としないところも
谷崎らしさといえます。
谷崎二十五歳の作品、
いかがでしょうか。

〔青空文庫〕
「The Affair of Two Watches」
(谷崎潤一郎)

〔「潤一郎ラビリンスⅢ」〕
The Affair of Two Watches
神童
詩人のわかれ
異端者の悲しみ

〔関連記事:谷崎潤一郎作品〕

〔中公文庫「潤一郎ラビリンス」」〕

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