「探偵小説の鬼 横溝正史」

圧倒的なビジュアルの力で迫り来る横溝正史像

「探偵小説の鬼 横溝正史」平凡社

「探偵小説の鬼 横溝正史」平凡社

圧倒的な筆力で都会風コント、
耽美趣味の物語、冒険活劇、
捕物帳、伝奇ロマン、
本格探偵小説など、
時代が求める創作を
発表し続けた作家・横溝正史。
日本ミステリの
歴史そのものと言ってよい、
巨人の生涯をたどる。
「横溝正史評伝」

買おうか買うまいか迷いながら、
やはり買ってしまいました
(わが家の娘が買ったのですが)。
平凡社別冊太陽:
日本のこころシリーズの一冊として
今年3月末に刊行された本書です。
文章として書いてあることの多くは、
すでにいろいろな横溝関連本に
書かれてあるだろうと
予想はつくものの、
横溝正史ファンの一人として
買わないわけにも行かず…、
でも…、買って正解でした。
圧倒的なビジュアルの力で迫り来る
横溝正史像。
それが本書の最大の特徴であり
味わいどころです。

本書のビジュアルな味わいどころ①
圧倒的な筆致が見える生原稿写真

何より嬉しいのが横溝正史生原稿の
画像データの数々です。
「鬼火」「蜘蛛と百合」「真珠郎」
「人形佐七」「蝶々殺人事件」「獄門島」等、
いくつもの生原稿画像が
掲載されています。
横溝はこのようにして
作品を書いていたのかと
しみじみ眺めることができます。
あまりのリアルさに、
それを書いていた横溝の息づかいさえ
感じられるような気がするくらいです。

生原稿だけでなく、
孫にあてた横溝直筆の手紙の写真や、
江戸川乱歩や谷崎潤一郎から
宛てられた手紙(特に谷崎については
文面だけでなく封書まで)が
掲載されています。
文学館等に出向かなければ
見ることのできない貴重なものであり、
こちらも嬉しい限りです。
横溝ファンにはたまりません。

本書のビジュアルな味わいどころ②
圧倒的な存在感を感じる書籍写真

「主要作品解説」の文章自体は
目新しいものはなく、横溝ファンなら
すでに知っていることばかりです。
でも添付されている書籍や雑誌の写真が
素晴らしいのです。
角川文庫を中心とした
現在流通している書籍の表紙しか
知らなかったのですが、
初出の単行本の写真が多数
掲載されているのは資料価値大です。

しかも横溝作品掲載雑誌の
誌面の写真にも見入ってしまいました。
なぜなら挿絵が見られるからです。
当時の雑誌では横溝作品にこのような
挿絵が添えられていたのかと
うっとりするくらいです。
これから復刊する横溝作品収録本には、
数点でもいいから当時の挿絵を
復刻してもらいたいものだと
感じました(柏書房刊の
「少年小説コレクション」では
当時の挿し絵が入れられていた)。
本当に嬉しい限りです。
横溝ファンにはたまりません。

できれば角川文庫の杉本一文表紙を
全収録してくれれば、
本書の価値はさらに
数段上がっていたことでしょう
(「杉本一文『装』画集」なるものが
出版されているのですが、
横溝作品すべては収録されていない)。

本書のビジュアルな味わいどころ③
圧倒的な横溝本人のスナップ写真

そして何といっても圧倒的なのは、
横溝本人や家族を含む貴重なスナップが
いくつも掲載されていることです。
本のサイズが22×29cmと
大型であるため、
写真も大きく掲載されているのが
魅力を高めています。
乱歩をはじめとする
ミステリ界の重鎮たちの顔ぶれも
いたるところに見られ、
横溝だけでなく、日本ミステリの
歴史すら読み取ることができます。
ただただ嬉しい限りです。
横溝ファンにはたまりません。

横溝正史という
日本ミステリ界の巨人の大きさを
立体的に捉えることのできる
素敵な一冊です。
これから横溝正史を読もうという方には
最適な入門書であり、
以前から横溝正史を愛読してきた
マニアにとっても
納得のいく専門書となっています。
絶版となる前に、
ぜひご賞味ください。

(2024.5.10)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

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(2024.5.15)

〔本書の構成〕
巻頭言 小林信彦 横溝正史氏の回想
「探偵小説一代男」の軌跡 横溝正史評伝
  文=山口直孝
 Ⅰ 探偵小説に魅せられた少年
   明治三五年―大正十一年
 Ⅱ 江戸川乱歩との出会い
   大正十二年―昭和六年
 Ⅲ 結核と戦争――二つの試練
   昭和七年―昭和十九年
 Ⅳ 金田一耕助の誕生
   昭和二〇年―昭和二六年
 Ⅴ 多作から沈黙へ
   昭和二七年―昭和四〇年
 Ⅵ リバイバルブームの中の創作
   昭和四〇年―昭和五六年
主要作品解説 横溝正史を読む
 探偵小説の鬼、その変幻自在な世界へ
  文=網本善光、廣澤吉泰
 鬼火/蔵の中/蜘蛛と百合/真珠郎/
 羽子板娘「人形佐七捕物帳」シリーズ/
 蝶々殺人事件/本陣殺人事件/
 獄門島/黒猫亭事件/
 百日紅の下にて/夜歩く/八つ墓村/
 犬神家の一族/
 悪魔が来りて笛を吹く/
 車井戸はなぜ軋る/
 貸しボート十三号/悪魔の手毬唄/
 病院坂の首縊りの家/悪霊島
横溝作品の世界を描いた男 杉本一文
小説と映画から解剖する
  名探偵・金田一耕助
 金田一耕助を読み解くキーワード20
 金田一耕助を深く知るコラム10
 金田一耕助事件地図 文=木魚庵
石坂浩二インタビュー
 原作者であり、
  共演者でもあった横溝先生
   文=杉山亮一
映画になった横溝の世界
 金田一耕助シリーズをめぐるコラム
  文=杉山亮一    
 発掘!片岡千恵蔵版
  「悪魔が来りて笛を吹く」
   文=山口直孝    
名探偵&捕物名人図鑑 文=木魚庵
特別公開 横溝正史の「日記」
 解説=山口直孝
家族が語る横溝正史 文=野本瑠美
 「桜三吟」に寄せて 解説=浜田雄介  
 作品に寄せて エピソードいろいろ①
 作品に寄せて エピソードいろいろ②
私の愛する横溝正史
 恩田陸/有栖川有栖/真山仁/
 はやみねかおる/柳家喬太郎/
 芦花公園/泉麻人/和嶋慎治
谷崎潤一郎を巡る
 江戸川乱歩と横溝正史 文=影山亮
祖父からの手紙 関口千佳
横溝正史主要人物録
海外にひろがる横溝正史 国境を越えて
 文=野本温/ダニエル・シートン
横溝正史 年譜 浜田知明訂補
横溝正史 主要作品リスト
横溝正史に出会える場所へ
※詳しくはこちらから(平凡社HP)

〔関連記事:横溝正史のエッセイなど〕

〔横溝正史ミステリ〕

おどろおどろしい世界への入り口
EnriqueによるPixabayからの画像

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戦前探偵小説四人集 (論創ミステリ叢書)
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