さすが100刷を超えるロングセラー
「ボッコちゃん」(星新一)新潮文庫
ある富豪の飼っているペットは、
15歳の混血の少女。
言葉など人間には不要。
そう信じる彼は、
生まれたての赤ん坊をもらい受け、
言葉を一切教えず、
大切に育てあげた。
ある日、富豪が交通事故で命を失うと、
少女は…。
(「月の光」)
自分を殺そうとした男を捕まえて
理由を問いただすと、
二人の男からほぼ同時に
高額の謝礼を提示されたという。
その二人の男を問いつめると、
またもや二人の男から
同時に依頼されたという。
さらにそれらを捜し出すと…。
(「包囲」)
戦争も犯罪も病気もない豊かな社会。
私と同僚は生活維持省の官吏であり、
役割は人口が増えすぎないように
コンピュータが選び出した人間を
間引きすることだった。
今日始末する予定の人間が
書かれたカードには…。
(「生活維持省」)
出版されている本の
表紙のデザインから、
星新一は子ども向けの童話のような
作品ばかり書いている人と、
私はずっと勘違いしていました。
勉強不足と思い込みは恐ろしいものです。
星新一がこんなにも
社会を風刺した作品や
ピリッとスパイスの効いた作品を
数多く著していたとは。
前回紹介した星新一の
「おーい でてこーい」を読んだあと、
すぐさま本屋さんへ直行し、
それが収録されている本書を
買ってきました。
50編のショートショート集です。
読み応えのある作品集でした。
冒頭にあげたあらすじの3作品は、
その中でも
特に私が気に入ったものです。
「月の光」は谷崎潤一郎好みの
シチュエーションであり、一瞬、
どう展開するかとドキドキしました。
でも、SFではなく、
人間の純粋な魂を感じさせる
ストーリーでした。
「包囲」では、
自分に殺意を抱いている人間の数が
次から次へと
増えていくというプロットが、
読み手の背筋を冷たくします。
「生活維持省」に描かれている世界は、
平和で豊かな社会を実現するために、
人々が公平に負担を分担することの
究極の姿といえます。
それが結果として
多くの矛盾を含んだ現代社会を
あぶり出しにしています。
昨日の「処刑」を彷彿とさせます。
さて本書、巻末を見ると、
平成26年10月で
何と107刷目のロングセラー。
作者没後すでに
20年以上が経過しているのに、
作品は新潮文庫だけでも40冊以上
現役で出版され続けているのです。
星新一、
実はすごい作家だったのですね。
この歳になって、
星新一の素晴らしさに気付きました。
(2018.12.29)