「時間戦士」(眉村卓)

本当の人間とは、そういうものだからですよ

「時間戦士」(眉村卓)
(「まぼろしのペンフレンド」)角川文庫

未知の敵・ザグバンダに
侵略された世界。
人類は都市を捨て、
3千年後の未来へと時間跳躍し、
生き延びる道を探す。
全人類が移動を終えたあと、
時間戦士・タキタの一隊は、
百年後の世界のザグバンダを
殲滅するため時間跳躍に入る…。

タイム・パラドックスを無視した、
やや異質な短篇SFです。
このザグバンダなる侵略者は
2万年先の未来人であり、
過去に地球上の全人類が
3千年後に時間跳躍した記録を知り、
人類が存在しないその空白の3千年を
自分たちの
レジャー・ゾーンとするために、
過去に進入してきたのです。

百年後の世界は、したがって
未来人(=ザグバンダ)のレジャー施設、
いわゆる楽園となっていました。
そこで捕らえられたタキタは、
未来人から3つの選択肢を示され、
どれかを選ばなければ
ならなくなります。
そこが本作品の読みどころでしょう。

選択肢①は、
この百年後の世界に止まり、
未来人たちと一緒に生活すること。
一生楽しく生活できる
保障を与えられるのです。
選択肢②は、
2万年後の未来世界に移り、
未来人たちと一緒に(労働も含め)
生活すること。「いそがしいが、
活気にみちた時代」なのです。
選択肢③は、
3千年後の世界に移動し、他の
旧世界の人類とともに生活すること。
無から人間社会を造り直す
「つらい時代」です。

さて、タキタは未来人たちに
どう返答したか?正解は③です。
未来人はいぶかります。
「なぜ、こんないい時代に背をむけて、
 あんな苦しい時代へ
 帰ろうとするのだ?
 しかも、ひとりの例外もないのは、
 どういうわけなんだ?」

それに対してタキタは
「たぶん、本当の人間とは、
 そういうものだからですよ」

本作品発表は昭和45年。
終戦から四半世紀が過ぎ、
高度経済成長を迎え、
さらには東海道新幹線開業や
東京オリンピックを実現し、
日本全体が創造の喜びにあふれ、
自信に充ち満ちていた時代です。
この頃でしょうか、
「モーレツ社員」という言葉が
賛辞として使われていたのは。

本作品のタキタの言葉は、
そうした時代背景と
無縁ではないでしょう。
「時間戦士」はまさに
「企業戦士」を擬えたものと
考えることができます。

製造業が敬遠され、
働き過ぎることが罪悪のように
言われ始めた現代ではどうでしょうか。
もしかしたらタキタの言葉は、
現代では共感を持って読まれることは
ないのかも知れません。
やはりSFは世相を映し出します。

(2019.5.25)

Thomas BudachによるPixabayからの画像

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