ホームズの冷静な観察眼が事件の謎を解きます
「サセックスの吸血鬼」
(ドイル/日暮雅通訳)
(「シャーロック・ホームズの事件簿」)
光文社文庫

ホームズのもとへ
依頼が舞い込む。それは
「吸血鬼」に関するものだった。
依頼主ファーガスンの妻が、
自ら産んだ赤ん坊の
首に噛みつき、
血を吸っていたというのだ。
ワトスンとともに
ファーガスンの館を訪れた
ホームズは、そこに…。
「ホームズvs吸血鬼」と
早合点してしまいました。
いや、モンスターとしての
吸血鬼ではないにせよ、
吸血鬼まがいの殺人鬼と
ホームズが戦うのかと。
江戸川乱歩の読み過ぎでした。
本作品は人情ものです。
ここでもホームズの冷静な観察眼が
事件の謎を解きます。
【主要登場人物】
ロバート・ファーガスン
…依頼主。ワトスンとは旧知の仲。
ファーガスン夫人
…ロバートの二度目の妻。ペルー人。
ジャック・ファーガスン
…ロバートの前妻との子。
幼いときの事故で障害を持つ。
メイスン夫人
…乳母。赤ん坊の面倒を熱心にみる。
ドローレス
…妻の使用人。友達のような仲。
ペルー人。
ジョン・H・ワトスン
…医師。ホームズと共同生活を送る。
シャーロック・ホームズ…私立探偵。
本作品におけるホームズの観察眼①
依頼人からの手紙に対して
私も含めた一般人は、
吸血鬼という思い込みを抱いて
読み進めるため、
そこに書かれてあることに
自分で勝手に付け加えて
イメージを膨らませてしまうから
いけないのです。ホームズは
手紙に書かれてあることに対して
先入観を排し、かつ
書き手の印象や感想を退け、
事実のみを掬い上げ、
そこで何が起きたのかを
組み立てているのでしょう。
読了後に再度読み返すと、
それがよく分かります。
本作品におけるホームズの観察眼②
屋敷の観察を通して
ファーガスン邸を訪問したホームズは、
次の二点について観察しています。
a:夫人のコレクション
(ペルーの道具や武器)、
b:病を得たスパニエル犬、です。
何やら謎めいた雰囲気が漂い、
やはり夫人の正体は
吸血鬼だったのではという思いが
頭をかすめます。
実はその二つにこそ
事件解決の鍵が隠されているのです。
そしてこの段階でホームズは
真相を掴んでいます。
本作品におけるホームズの観察眼③
家人との面談を通して
そしてホームズは夫人以外の
すべての家人との面談を通し、自らの
推理の確認をしていたのでしょう。
とくにジャックの観察で
推理は確信へと変わったようです。
最後は短時間で一気に解決させます。
しかもすべての人間に
最大限の配慮をした上での
真相の説明となっています。
「吸血鬼vsホームズ」などとんでもない、
最後は清々しい幕の閉じ方です。
さて、読み終えてみると、
ホームズの観察眼の素晴らしさに、
毎度のように唸らされるのですが、
これはもちろん作者コナン・ドイルの
構成の素晴らしさにほかなりません。
読み手が先入観を持って読むように
仕組まれているのです。
最初に「吸血鬼の件」と表された
他の弁護士事務所からの紹介状を
先に取り上げた上で、
ファーガスンからの手紙を
提示しています。
紹介状がなければ読み手は
「吸血鬼」という先入観を
持ち得なかったでしょう。
ファーガスン邸にしても同様です。
夫人のコレクションや
謎の病気の飼い犬を登場させ、
いかにもおどろおどろしい雰囲気を
醸し出しているのですが、
ドイルはそれを表面上の
目くらましであるかに見せかけ、
その実それを事件の重大な鍵の
隠れ蓑として機能させているのです。
短編ながら、随所にドイルの
創作上のうまさが光る好編です。
しかも凶悪事件が起きず、
悪人も登場せず、
ホームズが優しさを見せ、
最後は円満に解決するのですから
なおさらです。
ホームズ作品にまだ接していない方に、
最初の一篇として
お薦めできる作品です。
ぜひご一読を。
(2023.1.3)

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