「カリオストロ夫人」(横溝正史)

永遠の命を得るには…、方法は一つ

「カリオストロ夫人」(横溝正史)
(「山名耕作の不思議な生活」)角川文庫

役者・城はパトロンであった
カリオストロ夫人こと志摩夫人と
手を切ろうとしていた。
奈美江という新しい恋人が
できたからだ。
二人の関係に感づいた夫人は、
怪しげな予言をしたためた
手紙を城に送り、
その数日後、服毒自殺する…。

怪しげな予言とは?
「私はけっして
 負けるということを
 知らない女なのです。
 あなたが私の抱擁から抜け切って、
 その女と二人きりになったと
 思ったときこそ、
 私が勝った瞬間です。」

本来であればネタバレを
避けなければならないのですが、
本作品はミステリーではなく、
ホラーもしくはSFに
カテゴライズされるべき作品です。
結末を紹介すると、
城が奈美江と結婚した初夜の夜、
その予言通りになるのです。

「カリオストロ」という渾名に
すべてが表現されています。
カリオストロとは1743年生まれの
フランスの詐欺師であり、
欧州各国を旅し、
多くの偽名を使って社交界に潜り込み、
胡散臭い商売を繰り返した
実在の人物です。
彼の吹く大ぼら
(キリストと語り合った等)に騙され、
人々は彼が千年以上
生きながらえていると
錯覚していたのです。

この志摩夫人もまた、
年齢を遙かに超えた
知識と経験値を持っていることから、
実年齢を超えて
生き長らえているのではないかという
噂が立っているのです。
どうやらそれは本当らしい…。
一方、志摩夫人と奈美江は
同じ病院に通院していて、
その病院の院長は
志摩夫人宅に出入りしている…。
そして予言通りのことが起こる…。

と、ここまで読み進めると、
そのからくりは見えてきます。
最後に一気に
謎を解き明かすのではなく、
じわりじわりと読み手に
手がかりを与えて
恐怖感を募らせる方法は、
ホラー作品の常套手段です。
読み手は気づかざるを得ません。
永遠の命を得るには、
SF的には
方法は一つしかないのだと。
「肉体の乗り換え」もしくは
「魂の入れ替え」しかないと。

さて、その事実を
知ることとなった城は
自ら命を絶ちますが…、
ここはどうなのでしょう。
金目当てで志摩夫人と関係を持ち、
若さに惹かれて奈美江と結婚した
城です。
外見が奈美江なら中身が志摩夫人でも
何ら問題なさそうなのですが…、
と不埒なことを考えてしまいました。

多彩なスタイルが魅力の
初期の横溝作品。
ホラー&SFテイストの
本作品はいかがですか。

(2018.12.30)

Image by ivanovgood on Pixabay

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