「首吊船」(横溝正史)

由利・三津木の事件簿08

定番的探偵コンビ、定番的化物キャラ、定番的人物相関

「首吊船」(横溝正史)
(「由利・三津木探偵小説集成2」)
 柏書房

「由利・三津木探偵小説集成2」柏書房

「首吊り船」(横溝正史)
(「憑かれた女」)角川文庫

「憑かれた女」角川文庫

三津木が相談を
持ち掛けられた相手は、
政府高官・五十嵐の妻・
絹子だった。
彼女にはかつて結婚を約束した
瀬下という相手があり、
満州で非業の死を遂げたという。
彼女のもとに届いた
白骨化した片腕。
それは瀬下のものらしかった…。

横溝正史の戦前作品、
由利・三津木シリーズの一篇です。
このシリーズには
ジュヴナイルと見まごうものが
いくつかあり、
本作にもそうした傾向が見られます。
というよりも、本作品は、
そうした傾向が確立された作品と
考えることができます。
その確立された「傾向」を
そのまま愉しむのが、本作品の
正しい味わい方といえるでしょう。

【事件簿08 「首吊船」】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
三津木俊助…新日報社記者。
等々力警部…警視庁警部。
〔事件関係者〕
五十嵐絹子
…三津木に瀬下亮なる人物の捜索を
 依頼した女性。
五十嵐磐人
…政府高官。絹子の夫。
 絹子の父親の借金を肩代わりした
 代わりに絹子を嫁として
 もらい受けた人物。
 他殺体で発見される。
瀬下亮
…絹子の婚約者だった人物。
 絹子と五十嵐の縁談が決まった後、
 行方不明となる。
倉石伍六
…絹子と五十嵐の結婚媒酌人。
 五十嵐の事業の相談相手でもある。
尾崎千代
…五十嵐家の女中。
 三津木と絹子の会話を
 立ち聞きするなど行動が怪しい。
島木健作
…千代の幼馴染み。千代と共謀して
 三津木俊介を誘拐する。
お直…五十嵐家の老女中。
忠造…五十嵐家に仕える使用人の爺や。
頬に傷のある男
…怪汽艇を運転していた謎の男。
絞刑吏(くびつりやくにん)
…正体不明の怪人。
 五十嵐磐人を殺害する。
〔事件の概要〕
①白骨状態の左手が五十嵐家に届く。
 差出人不明。
②三津木と絹子の会談後、
 五十嵐邸近くの隅田川上に
 首吊船と絞刑吏出現。
③千代と島木、三津木を誘拐。
④五十嵐邸に絞刑吏出現。
 磐人を殺害し、死体を持ち去る。
 絹子は椅子に縛り上げられる。
⑤S署員、磐人の死体を発見。
⑥五十嵐邸に再度絞刑吏出現。
 倉石を殺害、絹子を誘拐。

created by Rinker
¥2,970 (2024/12/13 01:16:59時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
由利と三津木、定番的探偵コンビ

最初に事件に首を突っ込むのは三津木。
でもタクシーで尾行しようとして
まんまと罠にはまり、
殴られて気を失う情けなさ。
いいのです。
三津木の役割はワトスンなのですから。
中盤以降、由利が登場し、
冷静に、なかば興ざめ気味に
事件を解決していく。
いいのです。
由利はまさしくホームズなのですから。

本作品において、由利と三津木の
役割分担が確立したかのようです。
もっとも横溝は
単純にホームズ&ワトスンの構図に
二人を当てはめたわけではありません。
三津木はワトスンのような
聞き役などではなく、
アクティブな役目を担っています。
まんまと敵の策略に引っ掛かる
役どころもしっかりこなしています。
それがなければ
筋書きは面白くならないのです。

本作品の楽しみどころ②
絞刑吏の出現、定番的化物キャラ

死体を吊ってある「首吊り船」に
髑髏様の仮面を付けた
「絞刑吏(くびつりやくにん)」が
登場します。
子どもだましとしか思えませんが、
しっかり楽しみましょう。
いいのです。
これが昭和初期の
ミステリーなのですから。

それにしても、
由利・三津木シリーズの化け物キャラは
存在感があります。
「獣人」「真珠郎」「蜘蛛三」「ゴリラ男」
「双仮面」「ファントム・ウーマン」
そして本作品の「絞刑吏」。
この化け物キャラこそ、
戦前の横溝作品の醍醐味なのです。
江戸川乱歩もまた
「蜘蛛男」「一寸法師」「黒蜥蜴」
「黄金仮面」「人間豹」「影男」と、
負けじと化け物キャラを
創り上げました。
乱歩・横溝の両雄が、
競い合うように化け物キャラを
生み出していたのが
戦前の探偵小説界なのです。

本作品の味わいどころ③
錯綜する関係、定番的対立構造図

敵は誰なのか?
由利が問題を整理するまで
一向に分かりません。
「絞刑吏」、
「死んだはずの瀬下」、
絹子の夫「五十嵐とその仲間・倉石」、
「千代・耕作」の若い二人組、
誰と誰がつるんでいて、
誰が本当の黒幕なのか。
まったく分かりません。
いいのです。
それがエンターテインメントという
ものなのですから。

さて、探偵役として
等々力警部も登場します。
等々力警部は金田一耕助
東京方面のパートナーとばかり
思っていましたが、
由利・三津木シリーズにも
しっかり登場しています。
が、その割に何も活躍がありません。
きわめて存在感が薄いのです。
金田一の事件は戦後ですので
昭和20~40年代です。
一方、本作品の時代は昭和一桁です。
等々力警部もまだ若くて
頼りなかったのかもしれません。

ちなみに本作品の等々力警部と
金田一ものの等々力警部が
同一であるかどうかは分かりません。
同じ人物だとすると
等々力氏はかなり若くして警部に昇進し、
その後一向にうだつが上がらず、
昇進せぬまま退職したことに
なってしまいます。

それはともかく、物語は
絹子・瀬下・五十嵐のかつての関係を
交差させながら、
由利登場後、急展開で進行します。
80頁足らずの中編でありながら、
盛りだくさんの内容なのです。
昭和初期の横溝の名作、
十分に楽しみましょう。

※本作品の表題ですが、
 柏書房「由利・三津木探偵小説集成」では
 「首吊船」ですが、
 角川文庫版「憑かれた女」では
 「首吊り船」となっています。
 雑誌収録時は「首吊り船」だったのが、
 単行本収録時に「首吊船」と
 改められたとのことです。

(2019.3.31)

〔娘のつくった動画もよろしく〕
こちらもどうぞ!

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2024.2.14)

audible

〔「由利・三津木探偵小説集成2」〕
夜光虫
首吊船
薔薇と鬱金香
焙烙の刑
幻の女
鸚鵡を飼う女
花髑髏
迷路の三人
付録:夜光虫(未発表版)
編者解説(日下三造)

〔角川文庫「憑かれた女」〕
憑かれた女
首吊り船
幽霊騎手
※なお、角川文庫版の杉本一文表紙は、
 昭和版と令和改訂版では
 そのデザインが
 マイナーチェンジしています。
 違いは分かりますか?

「憑かれた女」(昭和版)

〔関連記事:由利・三津木シリーズ〕

〔「由利・三津木探偵小説集成」〕

created by Rinker
¥2,970 (2024/12/12 21:35:34時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥2,970 (2024/12/13 01:17:00時点 Amazon調べ-詳細)

〔横溝正史作品はいかがですか〕

おどろおどろしい世界への入り口
Myriams-FotosによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥2,200 (2024/12/13 21:22:18時点 Amazon調べ-詳細)
created by Rinker
¥4,180 (2024/12/13 14:31:20時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA