「黄漠奇聞」(稲垣足穂)②

まるでアラビアンナイト!

「黄漠奇聞」(稲垣足穂)
(「日本文学100年の名作第1巻」)
 新潮文庫

バブルクンドを制圧した王は、
神々の都にまねて
砂漠に大理石の
壮大な都市を建設する。
ある日、都の空に浮かんだ
三日月を見て、
国の旗印に使った月より
美しいことに王は激怒する。
王は三日月を討ち取るよう
部下に命じるが…。

※本記事は、Yahoo!ブログに
 2015年に投稿した記事を
 加筆修正したものです。

はまってしまいました。
「日本文学100年の名作第1巻」からの
一品です。
まるでアラビアンナイトの世界です。
面白さ抜群です。
粗筋の続きはぜひ
本書を手にとってお読みください。

それにしても大正12年に
こんな作品が生み出されていた事実に、
ただただ驚くばかりです。
明治の文豪(芥川・谷崎をのぞく)は、
現実的な小説ばかりであり、
このようなSFファンタジー的な作品は
安部公房まで存在しなかったと
思いこんでいました。
何だ、自分が知らないだけだったのか!
自分の本棚の幅の狭さを痛感しました。

解説を読むと、
「アイルランド人の幻想小説家
ロード・ダンセーニが、
ケルト神話をもとにして
北欧神話も加味した神々の物語を
生み出していた。(中略)
ダンセーニの物語に魅了された足穂が、
さらに『アラビアンナイト』のような
イメージをも加えて書き上げた」と
ありました。
そうです、この頃の文筆家たちは、
現代の私たちが考えている以上に、
小説の題材をもっと広い視野で
集めていたのです。

新潮文庫刊「日本文学100年の名作」
シリーズを読む限り、
日本文学にはいろいろなジャンルが
存在していたことがわかります。
その中で生き残ったのは
漱石や太宰たち。
「こころ」や「人間失格」など、
人間心理の奥の奥まで見つめ、
鋭利な刃物で切り取るように
分析したような作品ばかりが
「名作」として生き残り、
現代でも数多く
売り上げられているのです。
でも、それではちょっと
淋しくないでしょうか。

もし、この足穂の存在が
もっとメジャーであって、
高校の国語の教科書に
取り上げられるような作品を
書いていたなら、
この国の書店の文学コーナーは
もっと明るく華やかなものに
なっていたのではないかと思うのです。

明治の文豪らしい趣のある文体で、
現代作家顔負けのSF的かつ
幻想的な作品を紡ぎ出した稲垣足穂。
再評価が進むことを期待します。

※本作品は前回取り上げたように
 「一千一秒物語」にも
 収録されています。

(2019.11.18)

cocoparisienneによるPixabayからの画像

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